「シャトー・ムートン・ロートシルト」98年



 「高いワインって本当に美味いんか?」これは誰しも思うこと。特に最近では、苦渋味が抑え目で果 実味の多いカリフォルニア、オーストラリア、チリといった新世界ワインが手ごろな価格で出回るようになったので、格付けばかりうるさくて高いだけのフランス物でなくてもいいんじゃない? と思うのも当然だし、実際とてもおいしい新世界物が多いのも確かなので。
 何度か別なグループでやったことのある飲み比べ、今回は20,000円のフランスワイン、10,000円のカリフォルニアワイン、4,000円のオーストラリアワイン、2,000円のチリワイン、及び780円の産地名なしのフランステーブルワインを加えてブラインドテイスティングをしてみました。銘柄名は以下の通 り。

1)Chateau Mouton Rothschild 98 (\19,800) France, Bordeaux; Alc.12.5% Cabernet Sauvignon 72%, Cabernet Franc 8%, Merlot 20%
2)Frog's Leap Rutherford 98 (\10,000) U.S.A. California, Napa Valley ; Alc.13.5% Cabernet Sauvignon 72%, Cabernet Franc 28%  
3)Clarendon Hills Cabernet Sauvignon Brookman Vineyard 98 (\39,800) Australia, ; Alc.14.0%
4)Carmen Nativa Cabernet Sauvignon 98 (\1,980) Chile, Maipo Valley ; Alc.13.5%

 シャトー・ムートンは歴史のあるワインです。ボルドー格付け第一級。年間生産量 30万本。もともとはハートのマークのラベル「カロン・セギュール」で有名なセギュール家の小さな葡萄園でしたが、ユダヤの財閥ロスチャイルド家がワインの世界に入り込み、かつナポレオン三世がボルドーの格付けを行ってからは俄然ボルドーワインの中心的存在となります。ここら辺の事情は「ワインの歴史」コーナーに詳しく書いた通 り。1853年にナサニエル・ド・ロッチルド男爵がムートンを購入。しかし1855年の格付けでは第二級に格付けされます。1920年、孫のアンリ男爵が相続。その息子フィリップにより品質改善が図られます。1924年に全てのムートンのシャトー元詰めを行い、他の第一級シャトーを説得して回った結果 マルゴーを除く三シャトーが元詰めに同意。それまではシャトーはあくまでワインを樽販売しており、瓶詰めは外部のネゴシアンが行っていて、その分ワインの水増しとか結構不正があったそうなので、実はこれはかなり画期的なことだったようです。
  1945年から、有名な画家にラベルを描かせるようになりますが、これは当時宣伝担当でもあった男爵のアイデアによるものらしく、ワインと芸術とを結びつけるというワインの価値そのものの向上とマーティング的な要素とをうまく合致させたものです。何しろ毎年ラベルが変るとなれば、ビンテージが良かろうが悪かろうが「ようし全部集めたる!」と思う人は絶対いるものなあ。47年のコクトー、48年のマリー・ローランサン、64年のヘンリー・ムーア、70年のシャガール、73年のピカソ、75年のアンディ・ウォーホル、79年の堂本尚郎、90年のベーコンと、錚々たるラインナップ。これならもう絵の好きな金持ちなら飲まなくったって集めたくなるでしょうね。
  1973年、当時の農業大臣ジャック・シラクにより念願の第一級に格上げ。ラフィット・マルゴー・ラトゥールオーブリオン・ムートンの五大シャトーが第一級となりました。1855年の格付けからの変更は、100年以上経った今に至るまで、このムートンとカントメルル(こちらはオランダが主要取引先だったために記録から洩れていたのが原因。半年後に変更が認められた)の2品種のみ。もともとが万博用に取引価格だけから決めた格付けなので、今となっては味も価格も必ずしも反映されたものとはなっていません。「ブルータス」編集の「FAVORITE WINE BOOK III」には、「もはや五大シャトーではなく八大シャトーの時代」と題して、「コス・デス・トゥルネル」「レオヴィル・ラス・カーズ」「ピション・コンテス・ドゥ・ラランド」の3品種は一級と遜色なしとしています。
「ひとたび、口に含んだムートンは、厚みと渋味ときめの細かさを持ち、焙煎したコーヒーとバニラのにおいを含む強いカシスの香りを発散する」とは、「ボルドーワイン・ベストセレクション」に載っている紹介の言葉。では自分自身で飲んだ感想はというと、93年に飲んだ84年物はかなり味が濃く強い印象、98年に飲んだ92年物、93年物、94年物はいずれも香りが強く、雑味が少なく、苦渋味はしっかりとあるという印象でした。この時は結構人を集めて「オーパス・ワン」「モンテス・アルファ」とかと比較試飲したんだけど、家族とやった時も知人を集めた時もいずれも多数決では「オーパス・ワン」や「モンテス・アルファ」の方が人気があったような……。良く言えば雑味がないけれど、一方で果 実味が豊かな新世界物に比べて大人しい印象を与えるようです。五大シャトーの中では割と苦渋味の強いタイプだと思うんですが……

 すでに日記のコーナーで説明済みだけど、今回の9名の人気投票の結果結果も一位 カリフォルニアのフロッグス・リープ、二位はオーストラリアのクラレンドン・ヒルズ、というわけでわれらがムートンは「やや大人しい印象」とのことで第三位 に甘んじています。それでは一位となったフロッグス・リープはどんなものかというと……詳細は次のページで。



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