「シャトー・ラトゥール」93年



 ワインアドバイザーの資格が取れたのでお祝いしてくれと(図々しい……)各方面に打診したところ、T氏がI氏を交えて飲もうと行って来たので、ついでにかねてから噂に聞いていた土浦の鈴木屋というお店に行くことに。
 ここは雑誌なんかにも紹介されている、地下に100坪のセラーを持ち6000銘柄10万本を置いているというワインに非常に力を入れている酒屋さん。あの渋谷の東急本店で2000銘柄1万2千本、池袋やまやですら1000銘柄2万本ですから、その規模は相当なもの。それでいて、実際訪れてみると店構えはシンプルであまり目立たないから分からないものです。
 さっそく物色を始める……。この間の試飲会で味を占めたブルゴーニュの年代物、殆どのお店には90年代以降の物しか置いていないけど、ここでは80年代の物もかなり並んでいて思わず手が……。五大シャトーの、とっくに完売とものの本には書かれているビンテージも数本ずつ置かれていて、カードが使えなかったから諦めたようなものの、思わず歯止めが利かずに散財するところでした。あの「シャトー・シャロン」すら発見。それならばと、「シャトー・グリエ」(これも教本にしか出てこないようなモノポール)はありますかと聞いたところ、さすがに今は切れている……でもこっちの作り手の「コンドリュー」の方が絶対安くて旨い、と薦められ、結局それを追加購入してしまった……なんて商売上手
 上機嫌でT氏宅に向かうと、既に先に到着していたI氏がワインを一本持参して待っていたのでした。それがこの「シャトー・ラトゥール」! なんでこんな逸品を? ということで気が変わらないうちにとその場で抜栓。デカンテーションして頂いてしまったのでした。
 濃厚で厳しく力強い、カベルネ・ソーヴィニョンの個性が最も発揮されるというシャトー・ラトゥールは、五大シャトーの第三位にランク付けされていますが、そのはずれ年が殆どないとされる安定した品質は随一であり、他の畑に比べて石が大きくその断熱効果から早めに収穫できるからとされています。実際その濃厚な味わいは、カベルネの持つ複雑性を良く表現しているような気がします。
 14世紀の歴史家フロワサールによって書かれた「年代記」に、既にこのシャトーの土地のことが触れられていて、ジロンド川の河口を海賊から守るために作られたサン・モベールの塔を、百年戦争のおりにイギリス軍とフランス軍が奪い合ったとしています。ラベルに描かれているのがその塔なのですが、今はもうなく残っているのは物見やぐらの丸屋根の塔だけ。その後「カロン・セギュール」で有名なセギュール侯とその息子ニコラがこのラトゥール、そして「ラフィット」「ムートン」「カロン」を手に入れた17世紀末から18世紀初頭にかけてこの地でワイン醸造が花開いたのでした。なんかそういう背景を聞くと、それだけで結構有り難い気がしてきます。ある意味フランスの銘上品を味わうと言うことは、文字どおり歴史を味わう、ということなんですね。



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