「グランジ」1992


 


 ペンフォールド・グランジといえば、オーストラリアを代表する赤ワイン。希少な1950年代のビンテージは数十万円近くするという逸品ですが、手元にあるのは入手可能な1992年のビンテージでした。これもNさん宅で「シャトー・ムートン・バロン・フィリップ」と一緒に空けてしまいました。
 グランジはオーストラリアのシラーズが主体のワイン。シラーズといえば、あの甘苦い独特の風味が特徴的で、手頃な価格のものはまず間違えようのない分かりやすい香りを持っているのですが、このグランジにはそんなシラーズ特有の香りが殆ど感じられませんでした。輝きのある濃い赤紫色で、シラーズの甘い芳香というよりも、メルローやカベルネ・ソーヴィニヨンを思わせる複雑な香りがあり、しばらく置くと、それが徐々に甘くスパイシーな香りに変わっていくのですが、それでも飲み慣れたシラーズとは明らかに違いました。味は濃密で苦みが強く、正直なところ15年経ってもまだ若すぎるといった印象。もっと寝かせて置くべきだったか……!
 ペンフォールドは1844年にアデレードに移り住んだイギリス人の造り手の名で、元々は医者であり、オーストラリアにシラーズを最初に植えた人物とされています。1950年から醸造技術担当者となったマックス・シューベルト氏はボルドースタイルのグラン・ヴァンを目指し、シラーズとカベルネをブレンドした辛口赤ワインの「グランジ」を造り出しますが、当時のオーストラリアは酒精強化ワインと甘口ワインの全盛期、グランジの初ビンテージは単に辛口だというだけで発売が許可されたなかったそうです。1962年のシドニー・ワインコンクールで金賞を受賞するようになるまでは、殆ど省みられることもなく、1957年には販売不振のため生産中止命令が出たほどです。
 通常、ロマネ・コンティにしろペトリュスにしろ、その銘柄専用の畑があってワインはその葡萄からつくられますが、グランジには専用の畑はありません。ペンフォールドの生産する膨大な量 のワインから、最高水準と見なされるものだけを選別してブレンドするという独特のスタイルを取っているのです。すなわち、ヨーロッパのような単一のテロワールからワインを造りだすのではなく、単一年のアッサンブラージュで最高品質を作り上げるという、全く別 の思想に基づいたワインなのです。
 オーストラリアやニュージーランドは、近年その品質の高さとコストパフォーマンスの良さから世界的に注目を浴びつつありますが、その人気の秘密の一つは、ヨーロッパの規定する様々な制約を受けずに、まさに自由に独特のやり方で品質を追及している点にあるのかも知れません。



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