「シャトー・オー・ブリオン・ブラン」1996


 


 シャトー・オー・ブリオンは、五大シャトーの中でも特異な存在。1855年のボルドー格付けの中では、他のシャトーを上回る歴史の深さを誇るが故に唯一メドックではなくグラーヴに属し、産地が異なるが故に品種構成もメルローの比率が高く、繊細で柔らかいとされています。ボトルデザインは他のボルドーワインとは異なる肩の張った独特なもので、イギリスで最初にその銘柄が記録されたボルドーワインであるという保守性と、1961年というかなり早い時期に温度調節付ステンレスタンクでの発酵を導入するという先進性を合わせ持っています。
 いつかは飲んでみなくてはと思っていた、オー・ブリオンの白。10万本以上の生産量 がある赤に比べ、1万本以下しか作られない白は、当然ながら赤以上に希少な存在で、まさにそれ故に格付け対象外。19世紀の所有者が、貴腐ワインを造ろうとして植えたセミヨンとソーヴィニヨン・ブランは、乾燥した気候のため結局貴腐菌は付かなかったものの、ブルゴーニュのモンラッシェに迫るような濃厚な長熟タイプの辛口白ワインとなった訳ですが、何しろ高いし、赤ワインが主体のボルドーの白でなくても、まだ飲まなきゃならない白も沢山あるし……。
 などと思っていてはや○○年……ただでさえ入手困難なオー・ブリオンの白はますます値が上がる一方で、こりゃ下手すると本当に一生飲まず仕舞いかなと考えていた矢先、某お宅の結婚記念日で期せずして「シャトー・オー・ブリオン」を飲む会が開かれることになり、ならば白も飲んでみようかと、自ら切りだしてしまったのは言うまでもありません。
 当日皆が持ち寄ったワインアイテムは下記の通り。

 プチジャン・ピエンヌ・ブラン・ド・ブラン2002年
 エグリ・ウーリエ NV
 シャトー・オー・ブリオン・ブラン1996年
 シャトー・ラ・ミッション・オー・ブリオン2002年
 シャトー・オー・ブリオン1991年
 シャトー・デュクリュ・ボーカイユ1994年

 ボルドーはいずれも超級ビンテージではありませんが、それだけに今丁度飲み頃とも思われます。さてさてお味は……。
 「プチジャン・ピエンヌ」「 エグリ・ウーリエ」はいずれもレコルタン・マニピュランのシャンパーニュ。前者はシャルドネ100%のブラン・ド・ブランで、後者はほぼピノ・ノワール主体。前者はビンテージ物で後者はノン・ビンテージという比較。比べるならやはり「エグリ・ウーリエ」の方がより輝きがあって深い黄金色をしており、強いビスケット香が感じられて、個人的には好みかなあと。シャンパーニュというより白ワインの美味しさですが。
 そして「シャトー・オー・ブリオン・ブラン」。濃い黄金色で、グラスに注いだばかりの段階ではやや素っ気無い香りでしたが、次第にトロピカルフルーツ的な香りが立ち昇り、おそらくは樽熟成の影響を受けたトースト香も感じられました。味は……やはり予想通 りというか、かなりパワフルで、凝縮感が強く余韻が長い。前にモンラッシェを試飲した時にも近い印象で、まさに噛みしめるように味わうしかない白ワインでした。しばらく置くと、徐々にタバコのような香ばしい香りが現れてきて、これはもうまさにワインは時間をかけてゆっくり味わう物であるという見本のようなワインです。12年寝かせていますが、おそらくもっと置いていても良かったかも。
 ここはやはりそれなりの料理で味わいたいと、自宅でアメリケンソースを作って持参し、「魚介のミルフィーユ」を作りました。私のとっての熟成白ワインの定番料理であります。海老の皮を剥いてその皮を炒めてブランデーでフランベ、白ワイン、ブーケガルニ、トマトピューレ、生クリームを加えて煮詰め、濾してソースを準備。市販のパイ生地をオーブンで焼きながら海老、ホタテ、アスパラガスを炒め、焼き上がったパイの間に挟んでソースをかけます。久し振りの料理で仕上がりは今一つではありましたが、まあ風味的には合っていたかなと。
 「シャトー・ラ・ミッション・オー・ブリオン」は、以前は同じ畑だったこともあるという「オー・ブリオン」のライバル的存在。「オー・ブリオン」よりも濃厚なスタイルと言われています。暗いルビー色で、ハーブのような植物系の香りが強く、デカンテーションしてみたのですが、1時間以上置いてもまだ「若い」という印象。これは予想以上に手ごわい……。
 そこで合わせた料理は、こちらも私にとってのボルドー赤ワインの定番料理「ラムのグリーンソース」。クレソンとバジルを半々使い、松の実と生クリームでなめらかさを加えた特製グリーンソースなら、香草と相性の良いラムはもちろん、若干若いタイプの濃厚なボルドーの赤との相性の良さは確実であります。
   ←「シャトー・ラ・ミッション・オー・ブリオン」
 そして「シャトー・オー・ブリオン」。91年物ということで、しかも持ち込んだ本人に言わせるとあまり保管状態は保証できないということもあり、やや不安な要素もあったのですが……グラスに注いでみると、それほど熟成を感じさせないルビー色で、先の「ラ・ミッション」同様、驚くべきことにまだ充分若いという感じ。ボルドー独特のスパイシーで濃厚なカシスのような香りに加え、やや青っぽいハーブ香もあって、まだまだ熟成して風味が複雑になっていきそうに思われました。
 締めくくりは「シャトー・デュクリュ・ボーカイユ1994年」。「オー・ブリオン」と比べると、ややまろやかでカジュアルな印象ですが、意外と美味。なめらかなタンニンとナチュラルな酸味とのバランスが良いワインでした。



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