「ルネ・アンジェル・クロ・ヴージョ」1997年



 ブルゴーニュワインは、同じ畑から別々の所有者が別々にワインを造っていることが多く、その中で当然ながら筆頭、別格、ある意味間違いなしといった生産者があるように思われます。当然好き嫌いもあるし、スタイルの違いはなかなか甲乙つけがたいものですが、それでもシャンベルタンのアルマン・ルソー、ミュジニィのヴォギュエ、ヴォルネイのマルキ・ダンジェルヴィユ、コルトン・シャルルマーニュのボノー・デュ・マルトレイといった生産者は、その地を代表する造り手と言って良いのではないかと思うのです。逆に言えば、そういった指標があるとある意味分かりやすいし、一方でいやいや私の好みは違うと、個性やこだわりを持つきっかけにもなるものです。
 ではかの由緒正しい「クロ・ヴージョ」の筆頭生産者は…? となると、これが意外に難しいようで、最も広い畑を所有しクロの中に醸造所を持つシャトー・ド・ラトゥールなどは本来ならばある意味筆頭なのでしょうが、評価は分かれるようです。高い買い物なのであれこれ試すのも難しく、色々聞いて回ったわけですが、これという決定打は今のところ…高額さという意味での筆頭はルロワでしょうか。最新ヴィンテージは15万円くらい。しかし、ヴォーヌ・ロマネや他で多くの銘品を造っているので、クロ・ヴージョの代表と言えるかというと、ちょっと違う気も。
 エノテカで勧められたのはジャン・グリヴォー。畑は斜面下部ながら味わいはしっかりしているとのこと。マット・クレイマー「ブルゴーニュワインがわかる」で推奨しているのは上述のルロワの他に、メオ・カミュゼ、モンジャール・ミュニレ、そしてルネ・アンジェルといったところ。「アカデミー・デュ・ヴァン」のサイトでジャンシス・ロビンソンが2008年物をブラインド・テイスティングした中では、アンヌ・グロ、ミッシェル・グロ、そしてフランソワ・ラマルシュが良かったそうです。私自身は参加できなかったのですが、某ワイン会で「バベットの晩餐会」再現企画で出されたクロ・ヴージョは、写真を見た限りではラマルシュだったような…。
 ラ・ロマネをテイスティングした店でも、クロ・ヴージョのベストは? と尋ねてまず最初に名前が挙がったのがルネ・アンジェルでした。2004年までは造られていたものの、その後当主フィリップ・アンジェルが亡くなり、斜面上部の最高の立地は他の所有者のものとなりました。2005年以後はドメーヌ・ジゥジェニーが畑を引き継ぎ、その価格は1本3万円ほど。次に名前があがったのがアンヌ・グロとルイ・ジャド。「ルイ・ジャド・クロ・ヴージョ」は以前に飲んだことがあります。メオ・カミュゼも1990年物を試飲したことがありますが、実際メオ・カミュゼは今よりも1990年代が良かったのだとか。
 話だけ聞いていても致し方ない、いつかは飲んでみたいと思っていた矢先に、別のお店のワインリストで見つけたのがこの「ルネ・アンジェル・クロ・ヴージョ1997年」。聞いてみるとあと1本だけ残っているとか。普通の手頃なワインを飲むつもりでいたのが、急遽予定変更、1本しかないなら飲むしかあるまい! と注文してしまったのでした。
 実は先の店のソムリエからは、ルネ・アンジェル・クロ・ヴージョならお薦めなのが2001年、逆に今ひとつなのが1997年、暑い年で熟成が早く、基本的に甘い味わいなのだと教わっていました。その意味ではベストの選択ではないのかも知れませんが、何しろ殆ど入手不可能の銘柄、ここで飲まないと絶対後悔するな、と思った次第。

   ←トリュフを添えた鹿肉と共に…。

 明るい色調には若干レンガ色が加わり、熟成した感じがありますが、透明感のある香りはまだまだ力強さがあります。華やかな香りとしっかりした滋味感は、まさに理想的なブルゴーニュワインならではのもの。ミュジニイとヴォーヌ・ロマネの間に位置するワインですが、まさにそのイメージにぴったり重なる味わいでした。熟成したヴォーヌ・ロマネに見られる樽熟成と動物のニュアンスが重なった感じと、ミュジニィに見られる華やかな紅茶のような植物系の香りの両方を合わせ持っているような気がしました。まさに至福のひととき。「バベットの晩餐会」企画のワイン会のために、色々探していたのですが、まさにこれこそ決定打! ……でももう手に入らないんだよなあ…。



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