「シャトー・ラフィット・ロートシルト」1919年



 ボルドーの五大シャトーといえば、いまやとにかくとても「高い」ワインです。「ラフィット」ならネット価格で2000年物が26万円、新しい2016年物で10万円ほど。それより古い年代の物だとおいそれと手に入らないでしょうが、70年代のボルドーならさほど評価が高くないので、最新ヴィンテージよりも安くで手に入る可能性もあります。私の乏しい経験では、1級クラスの若いボルドーワインは実際に飲んでもやや堅めで香りも立たず、近年のヴィンテージは早飲みできるスタイルになっていると言われつつも、最近のヴィンテージのカベルネ・ソーヴィニヨン主体の赤ワインなら、むしろカリフォニアワインやイタリアワインの方が濃厚で香り高く楽しめるのではという印象があります。
 しかし一方で、より古い大戦前のワインとなると、新世界のワインはまだそれほど作られてもいないわけで、ポートなどの一部のワインを除くと、やはりフランスのボルドーやブルゴーニュなどの銘醸地の有名ワインに限られてしまいます。これらのワインはおいそれと手が出ないし入手も難しい。ただそのクラスになると、若いワインにはない不思議な香りが重なるようになります。それが古酒ならではの魅力、というか魔力だなと言ってしまえばそれまでですが……。
 毎年新年恒例のTV特番「芸能人格付けチェック」では、最初の1問目がワインで、ブラインドで100万円のワインと5,000円のワインを飲み比べて、どちらが高級か当てようというお決まりのパターンなのですが、いみじくも連勝のGAKT氏が言うように、どちらが美味しいか、ではなく、その背景にある物まで見極めなくてはならない、というのがまさにポイントなのでしょう。ちなみに2017年に「シャトー・オー・ブリオン1923年物」が番組に登場した時は、私も1920年代のオー・ブリオンを飲んでその色の濃さと香りの甘さに驚嘆した覚えがあるので、画面に写っているデカンターのワインの色で判別できました。GAKT氏の連戦連勝は怪しい、と言う人もいるでしょうが、少なくともワインに関しては、経験しそれを吟味した者だけが得られる手掛かり、という物があるように思えます。今年2020年に出題された「シャトー・ラトゥール1959年」の比較に出されたのは、銘柄不明の「ボルドーワイン1976年」5,000円。外観上の区別は殆ど分からず……というより、今時5,000円で買える1976年のボルドーワインがあるのか? とそっちの方が気になった次第でしたが。

  

 さて、今まで「シャトー・グリュオー・ラローズ1920年」が飲んだ中で最も古いヴィンテージでしたが、今回は「ラフィット1919年」。ついに「1910年代」の登場です。
 今回は6アイテム全てが「シャトー・ラフィット」。ボルドー格付け第一級筆頭銘柄を1996年から、百年前の1919年までさかのぼっていくという試みです。

 

 まずは「1996年」パーカーポイント100点取得の超優良ヴィンテージで、カベルネ・ソーヴィニヨン83%の濃厚タイプ。色も他と比べて明らかに濃く、香りも非常に強いです。まさに典型的なボルドーワインの香りで、思わず安心感が。甘い植物系の香りが支配的で、ムスクのような動物香は控えめ。若干のカベルネならではの青っぽさが感じられ、既に20年以上経っているものの、まだまだ早すぎた、という印象です。苦渋味もあり、果実味以上に収斂味が感じられ、シャープな印象。石をなめるような独特のミネラル感もあります。  
 そして「1986年」。こちらもパーカーポイント100点の超優良ヴィンテージですが、色も香りも96年よりは大人しめで、優しくやわらかな風味。むしろこちらの方がラフィットのイメージに近い気がします。ベリー系の香りが支配的で、若干のムスクもあり、むしろ熟成ブルゴーニュワインを想起させます。骨格はしっかりしていて、ストレートでスムーズですが、さほど濃縮感や複雑味は感じられず、パワーよりもフィネスのスタイルでした。  
 次の「1976年」パーカーポイント90点ですが、熟成が進んで香りもより華やかになっている気がしました。スミレやバラなどの、どちらかというと果実よりは赤系の花をイメージする香りが感じられ、チェリーやレーズンなどの風味も重なりつつも、華やかで軽快な印象。これに僅かながらチョコレートやバニラなどのミルキーな甘さが若干加わり、複雑味の増したフレーバーに。動物系の香りはあまりなく、口当たりは柔らかで、抵抗感なくすっと入ってくるイメージです。濃くはないのに深みはある、そんな味わいです。若干の鉄分が感じられると共に、紅茶の風味もあります。
 本来はここで1966年が入るはずでしたが、残念ながらブショネで今回は登場せず、一気に「1957年」となります。最初に感じたのがヨーグルト香。若干乳酸やミルク、チーズを感じさせる香りがあるのですが、しばらくするとこれは落ち着き、果実味が表に出てきます。スミレやバラなどの花香、そしてオリエンタルスパイスやローストビーフのような動物香も若干混じり、より前三者に比べて複雑味が増した感じです。ソフトではあるのですが、しっかり苦みもあり、様々な香りの要素が加わってきたイメージです。
 そして「1933年」。ここに至ると色合いはまさに明るく透明感のあるロゼ色に近い赤。照明が暗いので色調が掴みにくいのですが、「1933年」と「1919年」は並べてみても殆ど色合いが変わりませんでした。さて、「1933年」は独特のトースト香が真っ先に感じられ、バニラや八角など、若干刺激のあるアロマが重なります。焦げたというよりも香ばしく焙煎されたような風味でしょうか。インクや杉などの樹木系の風味も感じられます。味わいはなめらかで、長い余韻があり、若干の酸と収斂味があります。パワフルさを感じますが、トゲトゲしさはなく、非常に微妙なところを付いてきます。  
 「1919年」は、まず驚いたのが、独特としか言いようのない甘い香りです。ヨーグルト、ミルクコーヒー、ミルクティーのような、酸や蜂蜜などをあまり想起させない独特の甘みが香りに感じられます。長期熟成させたボルドーワインにたまに見られる香りで、これがまさに「素晴らしい」としかいいようがない味わい。「1957年」にもそのようなヨーグルト香を最初感じたのですが、その香りは変わってしまいました。しかし、こちらの「1919年」の甘いミルキーな香りは、一時間近く置いておいてもなかなか消え去らないほど強いのでした。味わいはバランスが取れているものの、しっかりした辛口で、ミネラルやテクスチャーもしっかりとあり、甘い香りとのギャップが強く感じられます。

 

 果たしてこのクラスになると、コルクは一体どのような……上がその写真ですが、一部は崩れてしまって判別不可能。ソムリエさんの話では、1957年物はおそらくリコルクされていないが、1933年と1919年はリコルクされているかも知れない、とのことでした。

 

 6つのワインをすこしずつグラスに残して、さてもし料理に合わせるなら……ボルドーワインならラムが定番ですが、ここはあえて、ラフィットの繊細さを考慮してシンプルにステーキスタイルの牛肉がよろしいかと。山葵を添えた黒毛和牛のローストを頂きました。このクラスの古酒だと濃厚で風味の強いソースはむしろ邪魔になるという判断ですが、内側がレアの牛肉と、若干酸味が際立つボルドーの古酒は好相性だったと思います。



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