「シャトー・グリュオー・ラローズ」78年



 会社の会議室で年代物の試飲会。まあ、仕方あるまい、これも仕事だからとテーブルに無造作に並んだボトルを眺めると……。
 「シャンベルタン97年」「シャトー・グリュオー・ラローズ78年」そして「シャトー・ラフィット81年」! ううむ、生きてて良かったなあ。この日のためにわざわざマイ・グラス(400ml位は入りそうなでっかいボルドー・グラス)を持参し、ネクタイも紫色で決めてきたのだ、ふっふっふ
 「シャンベルタン」は少々まだ若いかな。しかしピノ・ノワールとは思えないほど色も味も濃い。「ラフィット」はビンテージはいわゆる当たり年ではないけど、今飲むならむしろこれくらいの方がバランスが良いかも。まあ、文句の付けようのない味であります。どのワインが良かったか、ひとりずつ感想を述べるようにと言われて、偉そうに以下のコメントを披露したりして。
 「一番驚いたのは『グリュオー・ラローズ』です。かなりムスク香というか動物っぽい香りが強いので、結構生臭いと抵抗を感じる人もいるかも知れませんが、ぶどうの果汁からこの複雑な香りが作られるとは。やはりワインは肉食人種のお酒だと思います。きっと味の濃いジビエとかにも見事に合わせることができるでしょう!」
 うん、我ながらなんかそれっぽい。もっともアドバイザー資格所有者がその場にぞろぞろいたので、当然ながら反対意見も。「所詮、酸化臭だと思うけど」と、ちょっと苦手に思った人も多かったです。「開けてから次第に香りが開いてくる感じのするラフィットがやはり素晴らしい」という意見ももっともだと思いますし。
 このワインをはじめて飲んだのは、確か新宿のスイス・シャレー。友人と二人で赤を注文し、店の人に勧められて飲んだけど結構おいしかったのを覚えています。当時はまだこの名前を知らなかったなあ。1700年代にグリュオ兄弟が所有していた畑を娘婿のド・ラローズが買い取り、社交界で脚光を浴びたので「ワインの王、王のワイン(LE ROI DES VINS LE VIN DES ROIS)」と名付けられたその言葉が、今でもラベルに記されています。サン・ジュリアンの中でも特に濃密で力強く、12年以上経たないと口当たりが良くならないと言われますが、実際1928年とか1929年とか、とんでもないビンテージが本に載るのもこの銘柄ならでは。確か以前にブルゴーニュの赤の飲み会でトゥールダルジャンのソムリエをされていた方も、このグリュオー・ラローズの1868年を飲んだって言ってたっけ。明治維新の年のワインですよ? 2世紀半にわたって安定した品質を誇ってきたこのワイン、90年代以降は普通のボルドー瓶を使用してますが、何故か昔の瓶は独特のいかついボトルを使っていました。この78年の瓶もそうなんですが、そこら辺のゆかりを知りたいものです。



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