00年/第39回日本SF大会「ZERO-CON」体験記



●開催:2000年8月5〜6日 パシフィコ横浜
●私の参加プログラム:第一日@チェコの人形アニメ〜プラハからの報告(Zenni Yukishige、唐沢俊一)
              A第九回トンデモ本大賞(山本弘、唐沢俊一、眠田直他)
              BIND'Sおたのしみまんがまつり(自主制作映画上映)
              Cデスアニメ2000(立花晶、眠田直)
           第二日@SF創作講座(久美沙織、塩澤快浩、三村美衣、森下一仁)          

「オープニング」
 毎回アニメや特撮などの趣向を凝らした映像で幕を開けることの多いSF大会ですが、今回は残念ながら映像なし。予定では特撮入りのオープニングが用意され、知り合いもその製作に携わる筈だったらしいのですがボツになってしまったみたい。何人かのスタッフが何やら喋ったり歌ったりしていたのですが、えらく音響効果が悪くスピーカーからの声が完全にハウリングしまくっていて何を言っているのかさっぱり分かりませんでした

「チェコの人形アニメ〜プラハからの報告」
 チェコアニメといえば、お気に入りのシュヴァンクマイエルトルンカバルタといった芸術的・風刺的色彩の強い人形アニメで有名。果たしてどんな話が聞けるのかと楽しみにしていました。空想小説ワークショップの森下先生もここをチェックしていたようで、丁度お隣に座ることに。
 プラハ在住のアニメ作家幸重善爾(ゆきしげぜんに)氏を招いて、現在のプラハアニメ製作事情を語って貰う、というのが主旨。幸重氏は34才、9年前にチェコに渡り、トルンカスタジオにて実際の人形アニメ製作を行っているそうで、まず最初に氏の製作した14分のアニメ「ナーナク師の生涯」と7分のアニメ「ほたるっ子」が上映されました。前者はまるでキリストのようなインドの宗教家の一生を描いた、99年セントマーチチントラスト(?)宗教教育賞グランプリ受賞作。後者はチェコの有名な絵本を題材にした、チェコで夜七時から十分ほど放映されるテレビアニメ枠で流されたシリーズ物の第一話。特に後者は人形アニメとしては比較的テンポも速く、それでいて目玉一個を茎の先に付けてるシダのおばさんなんていう、グロテスクとも可愛いともつかないキャラが出てきたりして結構楽しめました。
 これらの映像は全て、イギリスやフランスなどと共同製作という形でテレビ向けに作られているため、簡単に上映会などに持ち込めないようになっているようです。それまで国営だったアニメ製作が89年の革命で全て民営化されたはいいけれど、そのために全てテレビ枠、コマーシャルベースで作らなくてはならなくなったため、それまでの芸術に優れた、ある意味上映時間も内容も自由だったものが逆に大きく制限を受けるようになっているそうです。80年代に立派なスタジオを建てたものの、機材を新しい物に換えることもできず、現像に出すまで撮ったシーンを確認できないし、海外で使っているような良質の粘土も買えないので、コンドーム工場からゴムを買っているというなかなかキビシイ状況であります。
 セルアニメと違って人形アニメは時間と費用がかかります。七分の映像を撮影するのに二ヶ月かかるし、作品一分あたりの値段は7500〜9000ドル、約100万円といったところだそうで、コマーシャルの仕事でも入らない限り稼げないけど、チェコ国内だけではとても需要がないので、トルンカスタジオでも昨年は一本くらいしか依頼がなかったとか。
 日チェコ辞典もなく、英チェコ小辞典を抱えてチェコに渡った幸重氏のバイタリティはなかなかのものだと思うし、作品の完成度も仕事的に不本意な部分があったとしても映像としてとても優れたものだったと思います。以前のような芸術作品が作られる可能性は99.8%ムリでしょう、というちょっと淋しい意見も出されましたが、氏の話によれば、今アウレル・クリムトという名の若い監督が割と泥臭い、古き良き「残酷さ」のある自主短編作品を撮っていて、若者達の支持を受けているそうです。またチェコのオリジナリティ溢れる新作アニメが見られたら嬉しいなあと思わず期待してしまいました。
 チェコではあまり人の名前にバリエーションがなく、スタジオにいたスタッフの五人が五人とも「ヤン」という名前で、しかも「ヤン」の愛称が「ホンザ」(なぜか愛称の方が長い……)というものだから、初めて自己紹介を受けた時、みんながみんな「ホンザ」と言うものだから訳が分からず戸惑ったという話など、馴染みの少ない国だけに面白い話が多かったです。隣の唐沢氏がいちいち「チェコは貧乏だから……」と言うのを繰り返していたのはちょっとどうかと思ったけど。

「第九回トンデモ本大賞」
 とにかく会場にいるだけで笑える「トンデモ大賞」であります。昭和九年生まれの自衛隊OBの書いた「小さな宇宙人」では腰簑一丁のえらく貧相な宇宙人が出てくるし、「阪神大震災は闇の権力の謀略だった」では何も証拠がないことこそ巨大な陰謀があった証拠とばかりご丁寧に作戦番号まで出てくるし、「処女懐胎の秘密」では太陽の光を浴びてなまものを食べれば処女懐胎できるとあるし……うーん世の中にはえらくけったいな出版物があふれているのだなあ。本が出なくて悩んでいる作家さんも多いだろうに、なんでこーゆーのが出版できるのか不思議だわ。
 大賞受賞作は現役のお医者さんが書いたという「大地からの最終警告」「永遠の若さは常温核融合から」とか「恐竜はハゲだったから滅んだ」とか項目だけ見ても笑えるし、「日本の心臓はここだ!」という文章の上には可愛い擬人化された日本地図のイラストの真ん中にハートマークが描かれているし、「一万四千年前の邪馬台国でのムーの王子との、クリスマスイブでの出会い」に始まる「痛快小説」がおまけに付いているという、いやはや会場大爆笑の連続のトンデモ本であります。

「IND'Sまんがまつり」
 まんがまつり、とあっても別にセルアニメではなく、東映まんがまつりとかで特撮物が多く扱われるのと同じで、殆どが自主制作の特撮ヒーロー物(もしくはそのパロディ)でした。ビデオ合成を多用した「Pマン・シリーズ」、パイロット版の「宇宙少女刑事ブルマ」(タイトルだけで恥ずかしいよ)、パソコン上の落書きアニメ「ハローキティ」、スライムみたいなモノが流れるだけの「みどりちゃん」等といったラインナップ。
 一番笑ったのは旗手稔氏の作品シリーズ。「日本の巨匠シリーズ」では、例えば小津安二郎版「サイコ」とくれば、布地の上に毛筆体で大きく「きちがい」とロゴが現れて、それで「終わり」……このパターンが何回か続くというもの。「仮面サンダー」は言うまでもなく「ライダー」のパロディなのですが、あいにくこの改造人間心がゆがんでいるので、「地球の平和を守るため、まず一人の女性を守ることにした」とストーカーよろしく女子大生を付け回す。挙げ句の果てにマンションに押し入り、驚いた女子大生が電話をしようとするとその電話を叩き落とし、「ふっふっふ、ムダだ。サンダーチョップは雄牛の頭蓋をも一瞬で叩き割る」とかなんとか言ってついにはその女性を絞め殺してしまうという始末。おいおいひでえなあと思うには思ったけど……どうなんでしょ、「フランケンシュタイン」にもあるように、やっぱり昆虫人間なんかに改造されたらみんなの平和より無差別殺人に走るのが人の情というものなんではないかしら。

デスアニメ2000
 デスアニメ、とは「みんなの心の中にある大切なモノが死んでしまう」というのがコンセプトなのだそうで……心の中に何か大切なモノがホントにあるかどうかはともかく、果たしてどんな作品が紹介されるやら、と興味があったので思わず観に行きました。
 最初に紹介されたのは「幸福物語」のオープニング。サントリーのビールのコマーシャルで有名なペンギンのキャラクターの映画なのですが、これが結構過激。ベトナムを思わせる戦場で、あのキャラクターがジャングルでマシンガンを撃ちまくり、次々とペンギン達が殺されていく……あれはこーゆー作品だったのか。知らんかった。「かったくん物語」は、山口県宇部市でペリカンの人工孵化に日本で初めて成功したことを記念に作られた作品なのだそうですが、丁度湾岸戦争の頃、テーマがふくれあがり戦争反対にまで発展、最後に無数のペンギン達が満月の夜に集まって一羽の巨大ペンギンに変身し、口から光線を発射してイラクの戦車を破壊しまくるというぶっとんだラストになだれ込みます。大滝秀治とか西村知美とか有名人が声を入れているのもびっくり。
 韓国で偶然エアチェックできてしまったという北朝鮮の動物アニメもなかなかぶっとびものです。南から攻めてくるイタチの軍勢をリスやハリネズミ達が迎え撃つという戦争物なのですが、戦前のディズニーを思わせる丁寧な絵柄とフルアニメ手法でありながら、内容は徹底して過激、落下傘で降りてくるイタチ達を地面から突き出た無数の槍が串刺しにしていくという残酷なシーンもあり、おいおいこれを子供に見せるんかいなと思わずにはいられない内容。敵を殺しまくって万々歳という戦争肯定アニメなんだけど、敵に対してはとにかく情け容赦がない。日本のマンガやアニメは世界一過激、なんて思っている人もいるかも知れないけれど、まだまだ甘いな
 士郎正宗原作の「ガンドレス」劇場公開版の一部も紹介。これは未完成のまま上映されてしまい、見に来た人には後から完成版のビデオが送られたといういわくつきの作品だとか。とにかく唐突に絵は止まるし、色の半分しか塗られていない絵が入ってくるしという酷いモノですが、完成版もそれほどすごいと言える訳でもなく、なるほど中途半端にうまいだけの作品というのはダメなんだな、という良い見本となっています。
 他にも絵の動かないアダルトAVモノなんてものまで紹介されましたが、いやらしいというより笑えるものばかりでしたな。ホモアニメなんて初めて観たっす。「君の好きなバーボンの原料だよ」とか言ってトウモロコシを取り出して云々……そりゃ笑うしかないって。

「SF創作講座」
 これは参加者があらかじめ短編作品をメールして、それを杉並さんが製本して、あらかじめ森下先生、久美先生、三村先生、塩澤先生達に送り、その場で批評してもらうという内容。今回が三回目で、私は二回目の参加。「アイと私」という作品をエントリーしています。
 31作品を収めた冊子「でならひ草子」は2段組みで424ページもあり、それ自体が重量級の短編集。内容的にもプロを目指す人達が参加しているだけあってなかなかあなどれないもの。
 2時間半の枠内では、一作品を議論するのにせいぜい4分くらいしか使えないということで、印象や問題点といったところ以上の突っ込んだ議論まではちょっと難しいかも。私の作品に関して言えば、「文章自体はうまいと思う」と言われてまずは一安心。四人の先生方からは「恐い世界だと思う。アドバイス難しい」「すごく冷静、もっと絶望感あってもいい。妙に冷めている」といった意見が出されました。
 「人を殺してみようかと考えるのは、例えば鬼、のような人達だと思うが、そういう人達はその気持ちを客観的には説明できないのではないか」という意見も出されましたが、私としては、昨今の「17才の犯罪」にしても、そういった鬼気迫る人間達というよりは、どこか冷めた、感情の起伏に乏しい者たちが、自分の閉ざされた精神の中で何か生の感触を求めて行ったものではないかと思っています。その閉じこめられた、閉塞的な感覚を、周囲の人間も全て同じ「自分」になる、という現象で表現したかったのですが……。
 四人の先生方がそれぞれの作品について良いと思ったら○を付ける、という採点法ですが、全く印の付かない人も多かった中で、私の作品は塩澤先生が△をくれたので、まあよしとしますか。



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