【展覧会】「スヌーピー展」(森アーツセンターギャラリー)
スヌーピーとチャーリー・ブラウンの日常が描かれる新聞の4コマ漫画「ピーナッツ・ブックス」は、小学生の頃からの愛読書で、現在も「FANTAGRAPHICS」で年二冊程度のペースで刊行される「The Complete Peanuts」を楽しみにしているのでありました。今回森アーツセンターギャラリーで、ピーナッツ・ブックスの原画展があるというので、さっそく足を運びました。
さすがにアメリカの漫画家なので、原画を見る機会はなかなかなく、今回が初めてですが、意外にコマが大きいことに驚き。確かにいくつかモノクロ写真で描いている場面を観たことはあるのですが、一コマ13cm×15cmくらいあります。本人は「とても小さな漫画だよ」とどこかでコメントしていたように思うので、実物を見るとやや意外。ペンの描線もその意味ではかなり太いわけで、あの独特の柔らかいタッチは、あのサイズならではのものだったのですね。
1950年に連載が開始され、50年後の2000年に連載終了と同時に原作者のシュルツ氏は息を引き取ったわけで、その意味ではまさにシュルツ氏の生涯は「ピーナッツ」という1本の作品にまさに集約されているわけですね。同時期に活躍した手塚治虫が600近い作品を残したのとは対照的。そのスタイルもデイリー4コマ+サンデー版のパターンが殆ど変わることはありませんでした。80年代後半から4コマが3コマになり(新聞の印刷スペースのためだとのことですが、世界で愛読されていた作品に対しなんたる暴挙!)、物語性が失われてどこか一コマ漫画風になったというイメージがあるのと、当初親しんでいたツル・コミックス・シリーズ全60巻から版権が角川書店に移ってからはなかなか本屋で見つけにくくなっていたので、最近ではあんまり人気がないのかしらと思っていたのですが…実際展覧会会場に行ってみると、受付は満員でかなりの混雑。年齢層もとても幅広く、ある意味感慨深いものがあります。
特に印象に残ったのが、日の目を見ることのなかった大人達がキャラクターの4コマ作品「ヘジメイヤー Hagemeyer」。1950年代に試みられた作品らしいのですが、しっかり完成しており、まぎれもなく大人漫画なのですが、それでいてシュルツ氏の描線の特徴もしっかり受け継がれていて、これがシリーズ化されても何も違和感はないように感じました。
【映画】クリスチャン・ヴァンサン「大統領の料理人」
1988年から2年間にわたってミッテラン大統領の専属料理人を務めたダニエル・デルプシュをモデルにした映画。この方に関する記事は、映画が来る前に読んでいたのでちょっと興味がありました。地元のペリゴールで小さなレストランを開いていた女性料理人が、男性ばかりの閉鎖的なエリゼ宮にいきなり呼ばれ、大統領の好む伝統的な家庭料理を出したところ、男達の嫉妬に苦しめられ、結局は辞職せざるを得なくなる…。その厳しいながらも華やかなエリゼ宮の料理事情を、映画は冒頭、南極調査基地で賄いをしている主人公をカメラマン達が追いかける場面から描き出します。いかにも寒々とした南極の海から物語が始まるというのは、ある意味なかなか効果的なのですが、実際にデルプシュさんも60歳の時にフランスの南極調査基地で1年間働いていたそうで、ささやかな家庭料理を手掛けるにしてはなかなかアグレッシブなのでした。
料理のメニューとワインの組み合わせの紹介が続くあたりは、ワイン好きとしては非常に興味のそそられるところ。ロワール料理にはロワールワインということで、「ユエのヴーヴレ」「ダクノーのシレックス」「クーレ・ド・セラン」「クロ・ルジャール」といった銘柄が台詞に出てきますし、ムルソーの造り手として有名なジャン・マルク・ルーロとその奥方でドメーヌ・ド・モンティーユの娘さんのアリックス・モンティーユも出演しているあたりは、かなり興味をそそられる方もいるはず。大統領がこっそり厨房に現れて、トリュフをのせたパンと共に楽しむのが「シャトー・ラヤス1969年」というのもなかなか。大統領が「いじめられているようだね…私もだよ」とつぶやくシーンも印象的です。
あの有名な「バベットの晩餐会」では、著名な女性料理人が北欧の寂しい漁村でフレンチの腕をふるうのですが、この作品はその前日談とでも言えそうな話で、冒頭南極で料理に専念するシーンもどこか繋がる感じがします。制限ばかりの中で無理難題を押しつけられるエリゼ宮よりも、遠く1万キロ以上離れた南極の方がよほどまし、という話ではありますが、料理とはあくまで芸術であり指図を受ける物ではないという強い意志が感じられるのです。
それにしても、トリュフというとどうしても我々庶民にとっては贅沢品というイメージがあるのですが、作中ではむしろ贅を尽くした料理に疲れた大統領が求める郷土料理の素朴な食材として扱われているところが面白いところです。あくまで素材そのものを楽しむもので、凝ったまぜこぜ料理とは異なるものだというわけなんですが、それでもやっぱり高嶺の花なのだよなあ。
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