12月


【映画】J.J.エイブラムス監督「スター・ウォーズ・エピソード9/スカイウォーカーの夜明け」
 基本的に「スター・ウォーズ」シリーズは、突っ込みところ満載の映画であります。「エピソード5/帝国の逆襲」で、「ダース・ヴェーダーがルークの父親」って、意外かどうか以前にそもそも前作「エピソード4」では二人は対決どころか会ってさえいないし「エピソード3/シスの復讐」ラストの対決場面で、アナキンは何も格好つけてバク転なんかしなくても、ひょいと地面に普通に降りればオビ・ワンに脚を切られずに済んだろうし。今回も、スピンオフ映画「ハン・ソロ」で、死んだはずの「ダース・モール」が出てきたのは当然次作「エピソード9」の伏線かと思いきや全然出てこないし、などと色々思ってしまいます。これらはヒット映画に付きもののパターンで、話を明朗にするためには細かいところは敢えて目をつむるというものなのでしょう。  
 しかし今回の最終三部作、「エピソード7」「エピソード8」を観てきた限りでは、確かに懐かしい面々が登場するものの、これは一体どういう話なんだろう、今一つピンと来ないなと思っていたのですが、この「エピソード9」でやっと腑に落ちたという点で、エイブラムス監督はうまくまとめたな、と感じ入った次第でした。果たしてこの最終三部作がどこまで当初ルーカスが描いていた物語を反映しているのか分かりませんが、結果として成功していると言えるでしょう。ランド・カルリシアンの登場は予告編で紹介されていたので驚きませんでしたが、ウェッジがちらりと登場してくれたのは正直嬉しかったですね。
 「エピソード4〜6」の第1シリーズは、分かりやすい物語に分かりやすいデザイン、分かりやすい音楽に分かりやすいハッピーエンドと、まさにSFテイストの王道冒険ファンタジーという印象が拭いきれず、3作の中では「つづく」で終わってしまった「エピソード5/帝国の逆襲」が、むしろ後から思うと雪と氷の惑星、熱帯の惑星、空中都市の惑星と舞台がめまぐるしく変わり、「禅」や「道教」などの東洋思想を思わせるようなフォースの解説などが新鮮で、印象に強く残っている気がします。
 「エピソード1〜3」の第2シリーズは、打って変わって分かりにくい物語とデザイン、最終的には主人公の破滅を描くアンハッピーエンドの物語。敵味方の境界線は必ずしも明確ではなく、従って宇宙船も戦闘機も衣装も、第1シリーズのようなシンプルに敵味方が描き分けられているようなものではなくなっています。考えようによっては、第1シリーズの良いところを否定するところから始まったように感じられたこの第2シリーズですが、それだけに当時の世相を反映しているようでもあり、20世紀後半の「愛が全て」的な楽観論を否定してかかっているところが逆に好感が持てたり。ただ「エピソード3」の盛り沢山感に比べると、オチが見えてしまっているだけに「エピソード1〜2」はどうしてもそこに至るまでの段取りにしか見えず、正直「3」だけでも良かったかな、と思ってしまいます。
 そして「エピソード7〜8」の第3シリーズは、ルーカスが自ら退きディズニーの配給となったことで、果たして正統に評価して良いものかと感じられたものの、第1シリーズのメインキャラクターを次々と登場させることで、まずはファンをつなぎ止めることに成功した、という印象です。ハン・ソロもルーク・スカイウォーカーも、鳴り物入りで登場する割には物語への貢献度が今ひとつで不満が残りますし、主人公レイも敵役レンも、第1、第2シリーズのキャラクターに比べると観る者が共感を覚えにくい描かれ方で、脇役のフィンも正直なところシリーズの冒頭からいる割には存在感が今ひとつのような……。その意味ではこのシリーズも、「エピソード7〜8」は旧シリーズのメインキャラを再登場させたところだけが見所で、ストーリー的には「9」だけで事足りるかな、と思ってしまったりして。
 ただ「エピソード1〜6」のシリーズが、あまりに「家族」第一主義で、宇宙を舞台にしたホームドラマみたいな印象がつきまとっていたのに対し、「エピソード7〜9」は家族に依存しておらず、むしろ血統の軛を断ち切って個として行動しようというメッセージに共感できたように思います。離婚率が50%のアメリカでも、新生児における婚外子の割合が6〜7割に達するヨーロッパでも、殺人事件の55%が近親者間となっている日本でも、もはや「家族の絆」は幻想というより、個人の足を引っ張る危険要因。自分の存在意義は自分で見つけようというラストは、むしろ今の時代ではなおさら切実なものとして受け取られるのではないでしょうか。
 70年から80年代の第1シリーズが、善と悪の対決と冒険譚に始まって、父と兄妹の家族の絆を取り戻す明るい活劇だったのに対し、90年から2000年代の第2シリーズは、家族の絆を求めたが故に執着心と猜疑心に囚われて破滅する悲劇的なストーリーで、2010年代の第3シリーズは、血統を断ち切り個の意志に立ち返って絆は自ら見つけるという「独り立ち」を描いた映画となりました。確かにその意味では、世相を反映した物語だったのだとあらためて思うのです。


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