【漫画】あずまきよひこ「あずまんが大王 全四巻」
テレビ東京深夜にアニメーションが始まったと思ったら、いつの間にか雑誌連載は終わっていた四コマ漫画。うーん、思いきりが良いというか何というか……。
最初にこの作品を目にしたのは、確か創元推理倶楽部の飲み会で、新発売された第三巻を読ませてもらった時のこと。その時は実はそれほどピンと来なかったというか……確かにそれなりに面
白いんだけど、中にはよく分からないオチもあったりして。
実はこれはかなりキャラクター中心のコミックなので、起承転結だけを求めてはいけないのですね。むしろおなじみのキャラクターのおなじみの言動を楽しめばいいわけで、ちゃんと一巻から読んで登場人物を把握していなくてはいけません。かならずしも四コマ一個一個がオチになっていなくても、連続してドラマが進行していくことも。そういう意味ではあのスヌーピーとチャーリー・ブラウンの「ピーナッツ・ブックス」を思い起こさせますね。もちろんあっちは新聞漫画なので少し哲学していますけれど、キャラクターを大事にしているところや、四コマが続いて一つのショートストーリーを作ったりするところがちょっと似てます。
共学なのに殆ど女子高といっていいくらい女の子ばかり登場してくる高校を舞台に、見た目はフツーなんだけどちょっと変ったキャラクターが集合。なんか読めば読むほど「ハマっていく」感じが。恋愛物の要素が一切ないのも逆に好感が持てます。
ちよちゃんこと美浜ちよは10才で高校に入学してきた天才少女(実際、入学できるのか?)。周囲との年代の違いなど殆ど意識することもなくしっかり溶け込んでしまうところがなんかおかしい。周囲のキャラクターの夢想する世界ではお下げ髪が空飛ぶ異生物だったり父親がねこのぬ
いぐるみだったりするという設定も凄い。
スポーツ万能の才色兼備、長身で抜群のプロポーションの持ち主の榊さんは、女生徒からも熱い視線を浴びているにもかかわらず、口下手で引きこもりがち。自分には可愛いリボンが似合わないなどと悩んでいたりして。実は可愛い猫が好きなのにも関わらず近所の猫には嫌われっぱなしで、それに対してまじめにコンプレックスを抱いているのでした。このギャップが面
白いのですが、実際こういう人っているようないないような……。四巻のイリオモテヤマネコのエピソードが印象的。
転校してきた春日歩は、単に大阪から来ただけで「大阪」と命名されてしまう。常にワンテンポ遅れてしまうおっとり型で、時に思い掛けない疑問が頭に浮かんでしまうのですが、その発想がちょっと常人離れしています。「綱引きの時の掛け声の"オーエス!"ってなんや?」「バンツ一丁の一丁って何? 一枚と違うの?」「雷ってヘソ取るやん? ヘソ取ったらそこはどーなるん?」「おまわりさんに好きになられたら大変やで。ほらあの人ら尾行とかするし」
ともこと滝野智は何事にも突っ走ってしまう性格の持ち主。超前向きなのだが、やっぱりこーゆー人が何事にも得しそうな気が。サンタクロースがいるかいないかの話から発展してきて、トナカイはいるかという質問に……「あはははーっ、こいつトナカイ信じてるよ!」「トナカイはいるぞ」「うっそでー! 空飛ぶ鹿なんていねーよー!」
そのともの友人よみこと水原暦は眼鏡をかけた優等生なのだが、どちらかというとソンな役回り。わがままでひがみっぽい担任のゆかり先生は、「あいつらなんて所詮うわべだけの付き合いですよ」と言い切っちゃうコワイところもあるし、古文の木村先生は女子高校生好きのストーカーなのだが、美人の奥さんがいて路上募金に一万円を差し出す「善人(?)」だったりして。
いつまでも年をとらないサザエさんやちびまる子ちゃんとは違って、しっかり三年間高校生活を送って卒業と同時に連載も終了、というのは実に潔いとは思うのだけれど、ちょっと勿体ないかな。そうそうここまで作品を作り上げることはできないのでは……? ちなみに今放送されているアニメーションも、絵が丁寧で声のイメージもぴったり。内容からしても充分ゴールデンタイムで通
用すると思うんだけれどなあ。
【映画】ジョージ・ルーカス「スターウォーズ/エピソード2〜クローンの攻撃」
「スター・ウォーズ」第一作から、第二作の「帝国の逆襲」までは結構間があったような記憶があるけれど、「エピソード1〜ファントム・メナス」から「エピソード2」までは「もう三年経ってしまったか!」と思わず感慨にふけったりして。堂々たる「エピソード2」の登場、12チャンネルの「ショービズ」では既に9位
にまで転落(一位はディック原作、スピルバーグ監督の「マイノリティ・レポート」!)していて、今一つ不安が……といいつつも、これはもう中学生の頃からのつきあいみたいなもんで、今回もやっぱり先行オールナイトに行ってきてしまいました。
狙われるパドメ議員、暗殺者を追うオビ・ワンとパドメを護衛するアナキン、銀河系さいはての星カナーンで製造されるクローン兵士、クリストファー・リー演じるドゥーク伯爵は共和国にシスの支配が及んでいることを指摘し、母親に死なれたアナキンは仇のサンドピープルを皆殺しにする……展開はとてもスピーディで、意外と飽きさせません。小惑星群での追跡シーンやアナキンが右腕を失うシーンなど「帝国の逆襲」に重なる場面
も意図的に挿入されていて、かなり練られた脚本だなという印象でした。もっとも、あくまで連続活劇の第二話、見事に「続く……」の結末なので、映画としての完成度を云々するのは無理というもの。まあ、前三作も二作目が一番人気なかったしなあ。
いずれダース・ベイダーへと転身する主人公のアナキンの危うさは、彼を指導しようとするオビ・ワンに対する反抗的な態度に既に現れていて、とても興味深いですね。前作「エビソード1」のDVD収録の映像特典では、主人公のアナキン役にあえて演技の控えめな自然体の少年を選んだことや、少年が友人と取っ組み合いの喧嘩をするシーンをあえてカットしたことが説明されていたけれど、「エピソード2」を観たかぎりではそれはちょっと失敗だったかも。一作目のアナキンがあまりに普通
の少年だったので、なんかオビ・ワンの元でねじ曲がってしまったように見えてしまう。やはりちょっと斜に構えた、どこか利発過ぎてかつ直情的な危ういところのある少年を起用したほうが良かったんじゃないかなあ。その方が逆に周囲に理解されない主人公として感情移入しやすかったと思うんだけど。もっともパンフレットには、製作者のリック・マッカラムのこんなコメントが載せられていました。
「僕はチャールズ・マンソン(有名な殺人鬼)の三才の頃の誕生日の映像を観たんですが、もう感激するくらい美しい子供でした。
」
まあいずれにしても、三作目でダークサイドに落ちるくだりを納得のいくものに見せるためには、かなりエピソード6「ジェダイの復活」(「復讐」と訳されているけれど、リベンジじゃなくてリターンなんだからやっぱり「復活」だよなあ……)とは異なるシチュエーションを持ってきてくれないと。どうしてもここで暗黒面
に身を置かなくては耐えられなくなるような絶望を、果たして次の映画で用意してくれるかどうか。私のイメージではあの三浦健太郎の漫画「ベルセルク」の、精神を引き裂かれ、肉体を極限まで辱められた後に「魔」に転生することを選択するグリフィスのような展開を期待したいところですが、どう考えてもそこまで暗い物語にはなりそうもないし、あんまし中途半端だと納得いかないし……。
今回の一番の見どころは、アナキンとオビ・ワンが破れた後に、真打ちとして登場するヨーダのライトセーバーでの決闘シーン。それまでひょこひょこ杖をついて歩いていたのが、セイバーを手にするやいなやいきなり自在に飛び回り極めたフォースパワーで三倍近い体格の敵を圧倒してしまうのでした。これはもう、マペット技術を通
り越してまさにCGならではの見せ場なんだけど、ある意味凄いんだがちょっと軽業師的。やはりヨーダはあのひょこひょこした風貌のままで、緩慢な動作にも関わらず相手はダメージを与えることができず、「何でスピードもパワーもこっちの方が上なのにかなわないんだ〜」と相手を慌てさせて欲しかったですね。確か「バガボンド」で、宮本武蔵の振り下ろした剣を寝転がったまま孫の手一本で受け止めるお爺ちゃんが出てきたけれど、丁度ああいう感じが良かったな。ルーカスは黒沢映画とかかなり勉強しているんだけれど、日本の漫画も参考にしてくれるともっと面
白いかも。