スペインツアー(Madrid,Toledo,Cordoba, Granada,Malaga,Barcelona)

第二日(
7.18.Sun.)「マドリード→トレド」


 午前七時十五分にモーニングコール。恐れていた発熱は起こらず、かなり気分も楽。めでたしめでたし。
 午前八時四十五分、ホテルを出発、大型バスでプラド美術館へ。マドリードは現地の佐藤さんという方が引率。添乗員の名前も佐藤さんなので紛らわしい
 プラド美術館では所持品は金属探知機を通すとのこと。ベルトにポシェットをくくりつけていた私はバスから降りる直前にそれを聞きおおいに焦る。荷物を全部持っていこうとしたら持ち過ぎだと止められたので、仕方なく小さなポシェットにむりやり日本円の財布まで押し込み、慌てて他の人達の後を追ったのでした。ビデオは不可だがカメラはオーケー、しかしフラッシュは厳禁とのこと。いずれにしても、焦ってビデオカメラをバスに置いてきてしまっていたので撮影できないダメじゃん……。  
  いよいよあこがれのプラド美術館へ。二階の入り口から中へ進むと、いきなりベラスケスの「ラス・メニーナス」がある。なんとも無造作に展示されていて逆に驚く。そのままゴヤの部屋へ。「サトゥルヌス」「巨人」「二人の老人」などの慣れ親しんだ名作が簡単に、何の解説らしきものもなく整然と展示されています。丁度「サトゥルヌス」の絵を斜め右から眺めると、向こう側の壁に最後の作品「ボルドーのミルク売りの娘」が見える、というのもご愛嬌。「着衣のマハ」「裸のマハ」を通 り過ぎ、さらに奥にはカルロス王家の肖像画と、ゴヤづくし。思ったより明るい照明だったのが意外でした。フラッシュは厳禁のはずなのですが、フラッシュを平気で焚いている老婦人がいたけれど、誰も来なかったなあ。
 一階に降りて、いよいよお目当てのボッスの絵へ。「悦楽の園」の部屋に到着。実物を見ると、この作品がやはり別 格であることが分かります。すぐそばに、やや一回り小さい「枯草車」という名作があるが、比較してみると後者はかなりラフに見えます。「悦楽の園」は想像以上にカラフルで、生々しくリアルなのだ。地獄図のナイフを挟む巨大な耳は、ぎとぎとと光っていて、画面 右下の甲冑の怪物はまさに金属の手触りが感じられるような質感。これに比べると、先行する作品、「枯草車」や「東方三博士の来訪」などはかなり上塗りが薄く未完成の印象。もちろんそれでも実際に目にした作品は、非常に細かく完成度としては申し分ないのですが。
 同じ部屋にはブルーゲルの「死の勝利」もあって、こちらもある意味ボッスと同レベルにグロテスクなのだが、ボッスほどにはアイデア満載というわけにはいかず、どちらかというと生真面 目に考え抜かれて描かれた作品と感じられました。 他に、ボッスと良く似たグロテスクな地獄絵を描いたPEETIER HUYS(~1577)や、同時代に宗教画を描いていたPATINIR(1466~1530)といった聞き慣れない画家の作品も同じ部屋に展示されていました。   午前十時半までの時間しかないので、急いで他を見て回りました。ティッツァーノの「Venus recreandose en la musica」は、裸体のビーナスの隣で着衣の楽士がオルガンか何かを弾いていて、これはあのマネの「草上の昼食」の元ネタかしらと思ったり。ラファエロやエル・グレコの作品を見回しているうちに早くも時間切れ。三階のゴヤ初期作品の部屋には行けませんでしたねえ。仕方がないので日本語のガイドブックと「悦楽の園」のポスターを買って集合場所へ急いだのでした。
 次の目的地はソフィア王妃芸術センター。ここの目玉はなんといってもピカソの「ゲルニカ」であります。残念ながらここは一切撮影禁止。しかし事前に聞いた話では「金属探知機はない」ということだったので、またベルトにポシェットをくくりつけていったら、やはりレントゲン検査があり所持品は差し出さなくてはならず、再び焦りながらいそいそとベルトをはずしたのでした。情けない〜。  さて、プラドでは音声解説はなかったのですか、ここではイヤホンを使って佐藤氏の解説を聞くことができました。37年にバスク地方の田舎町ゲルニカが爆撃され、そこに行ったこともないピカソが、四日後の新聞記事をみて制作を決意。結局爆撃を指示したフランコ将軍が政権を握り、作品は行き場を失ってニューヨーク近代美術館に預けられることになったこと、当時はまだフランコ政権が健在で、作品には防弾ガラスがはめられていたことなど、なかなか熱心に語って下さったのでした。佐藤氏によれば、作品の馬はフランコ将軍を、牛はピカソ自身を表し、登場人物すべては当時の愛人で写 真家のドラマールをモデルにしているとのこと。
 隣の回廊にはミロの作品が並び、そのさらに奥にはダリの作品があります。しかし、ダリの代表的な作品群はなぜか小さなパネルに置き換えられていました。どうやら、現在ダリ生誕百年を記念して特別 展示会が行われていて、作品の大半はそこに貸し出しされているらしい。
 ここでの閲覧時間は午前十一時四十五分まで。他に興味深い作品としては、OSCAR DOMINGUEZ (1906~1957) 「Cueva de guanches」(1935)や、「Retrato de Roma」(1933)など。特に後者は、両腕をもがれた女と、その隣でピアノを弾いているもがれた両手という、ホドロフスキーの映画「サンタ・サングレ」を思わせるさりげないグロテスクさが魅力。他にLUIS FERNANDEZという聞き慣れない画家の線画「composicion erotica」(1936)は、エルンスト・フックスを思わせるグロテスクなモノクロ画で、他の作品も見たくなるような個性的なものでした。思わず見とれているうちに集合時間。いざもどろうとして入り口が分からず焦る。
 午前十二時。スペイン広場へ。セルバンテスとドン・キホーテの像があります。セルバンテスは元々は大学での医師で、対トルコ戦で片腕を失い、六年間の奴隷生活の後アンダルシアに帰り、そこで税金徴収人となるも、えん罪で再び投獄。その獄中で書かれたのが「ドン・キホーテ」こと「ラ・マンチャ」なのだそうです。
 (スペイン広場のセルバンテス像)
 午後二時から三時まで「バハマール」で昼食。魚のスープとサラダ、シーフードパエリアというある意味スタンダードなスペイン料理。白ワインが意外に美味しかったのですが銘柄を聞きそこねました。年代物のリオハワインがあるというので壁にかかったリストを眺めていると、自分のビンテージ、1965年物を発見。すぐに購入を決心する。87ユーロでしたが、もっと古い1920年代ものも100ユーロ代で買えるようでした。少々長旅の間の影響が心配ではあるが、とりあえず手荷物の中に。  
   (魚のスープとパエリア) 
 午後三時にバスで古都トレドへ。一時間ほどで到着。1085年にアルフォンソ六世が再征服してから、1561年にフェリペ二世が首都をマドリードに移すまで、スペインの首都だった城壁都市。それ以前もローマ時代からケルトの街があったそうだから相当古い。トレドはケルト語の「丘」を意味する言葉から来ているという。  
   (トレド全景を背景に)
 展望台でトレド全景を一望した後、アルカサルのすぐそばのホテル「アルフォンソ六世」へ。ロビーには鎧を飾っているというなかなかおもむきのあるホテルでした。
 一度チェックインした後、午後五時十分に外へ出て、一緒に来ていたKさん夫妻とトレドを一周するトレイン・バスに乗ってみようということに。スタイルは真っ白の機関車なのだが、実際は道路をそのまま走るバスであります。薬屋でチケットを購入し、午後六時発の列車?に乗り込む。遊園地の機関車みたいな作りで、そのまま車と一緒に道路を疾走していくのはなかなか爽快。もっとも一周四十五分、舗装されていない道路がほとんどなので、終わる頃には結構しんどくなりました。それにしても、車一台やっとの細い道まで、客車をひっぱりながら進めていく運転さばきはなかなかのものでした。    
  (トレイン・バスを背景に)
 午後七時に一度部屋に戻り、午後八時から夕食。ホテルのすぐ近くの店でコース料理。一皿目はチキンレバーのパテ、二皿目は茄子とエビのクリームソース和え、三皿目はウズラの煮込みポテト添え。飲み物は個別 勘定なので、赤ワインのハーフボトルを頼む。センシベルの2001年物。味はいかにも若いスペインワインといった感じ。う〜ん、ワインについていまいち盛り上がれないのが今回の旅行の難点かな。    
   (レバーパテとナスのグラタン)  
    (ウズラの煮込みとプリン)
 午後九時半頃一度部屋に戻り、午後十時から夜のトレドを散策。治安が悪いのはマドリードとバルセロナで、トレドは観光地であるせいかその意味では夜出歩いても大丈夫なのだそうだ。もっとも狭い道が入り組んでいるので、一人では迷ってしまうだろうけれど。夜のカテドラルはライトアップされて白く輝いており一見の価値あり。アンチャ通 り、西のファサード、南のファサード、ソコドベル広場を通り、そのまま川へ降りてアルカンタラ橋を渡りました。残念ながらアルカサルは修復中でライトアップはされていないのですが、古都ならではの落ち着いた雰囲気が楽しめました。
  (夜のカテドラル)   (アルカンタラ橋の夜景) 


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