「マンチーニ・インペロ・プラン・ド・ピノ・ノワール」2007年



 今年の初めに「すっぽんに合うワインとは?」というテーマで、様々な組み合わせを楽しませてもらったのと同じお店で、今度は夏に「ハモに合うワインとは?」というテーマで再び挑戦。前回は「ニコラ・ジョリー・クロ・ド・ラ・クーレ・ド・セラン2003年」を持ってきて、それなりに決着をつけたのですが、今回はさて何を用意したものか……。
 前回はすっぽんが川に棲んでいることから、「川沿いの畑もしくは軟水ミネラルウォーターの産地であるということ。樽香が前面に出ることがなく、酸はどちらかというと柔らかめということ。極力二酸化硫黄の控えめな自然派ワインであること……」などをポイントとして挙げましたが、今回はうってかわって海の肉食魚。たくましい生命力という意味では通じるものがあるものの、かなりニュアンスは違うし、その前に試した「ふぐに合うワイン」とも違いを出したい。というわけで、色々と試した訳ですが……。
 集まったメンバーは11名、日本酒は別の方がこだわりのものを用意して下さるとのこと。もちろん和食には日本酒の方が合うのは当然で、私の経験からしてもアルコール度が高く酸味が低い日本酒は風味の点でもワインより「強い」のですが……。
 まずは乾杯用に、「エグリ・ウーリエ・グラン・クリュ・ブラン・ド・ノワール・ヴィエイユ・ヴィーニュ」を。ふぐの会ではイギリスの「ナイティンバー」を用意しましたが、より野性味と甘味のあるハモでは正統派で濃厚なシャンパーニュRMのブラン・ド・ノワールで……。これはもう、ハモに合うかどうかという以前に単なる私の好みという感じもするのですが、程よい酸味と力強いボディが意外にハモの梅肉和えにマッチしていました。
  ←ハモの梅肉和え ←ハモの寿司

 対する日本酒は栃木の生酒「鳳凰美田」。甘味があって、こちらはまさにハモの甘味とぴったりの相性でした。
 さて、海の物と合わせるならば、海の近くの畑のワインが合うのでは……磯の香りしかり、ミネラル感しかり。川のものであるすっぽんでは敢えて避けたタイプのワインをと考えたわけですが、そこで浮かんだのがこの独特なスタイルのイタリア産白ワイン、「ファットリア・マンチーニ・インペロ・ブラン・ド・ピノ・ノワール 2007年」であります。
 海産物ならイタリアワインは合わせやすい筈ですが、グローバルな流通を目指すフランスワインに比べ、地元消費主体のイタリアワインは意外に日本料理には合わせづらく……。実はこの会に先立ち、あるイタリアンレストランで今年初めてのハモを頂いたのですが、その際に合わせたのはプロセッコ。お店の方曰く「当然ながらぴったりの相性です。ソースにプロセッコを使っているので……」
 今回はさすがにソースにワインを使う訳にはいかず、素材の味と出汁で勝負の和食に敢えて組み合わせるとすれば……実は当初から、ピノ・ノワールの白を想定していました。先のブラン・ド・ノワールもしかりですが、ピノの持つ繊細さとタンニンを含まないことによる料理との合わせやすさは、同じくピノ・ノワールの白、「ビネール・ブラン・ド・ノワール」を飲んだ時から注目していた次第。ただこちらはアルザスのワインであり、少し趣向を変えて海により近い畑のものはないかと探したところ、この「インペロ」を見つけたのでした。
 マンチーニ家はアドリア海を見下ろすモンテサンバルトロ公園の中に、海から1kmしか離れていないところに、約31ヘクタールのブドウ畑を所有しています。土壌は砂を多く含む石灰質・シルト質。約200年前にナポレオンがフランスからピノ・ノワールの樹をこの地に移植し、その時の原種を代々守り育ててきたので、表ラベルには「ビアンコ・ピノ・ネロ」とは表記せずに、「インペロ・ブラン・ド・ピノ・ノワール」と表記されているのだそうです。実際に飲んでみると、ピノ・グリ的なしっかりしたボディが感じられると共に、どこか梅酒にも似た、上品なアプリコット香が印象的です。
 日本酒は山口の山廃純米「福娘・長陽」。こちらはおそらく乳酸に由来する独特の酸味が印象的で、「鳳凰美田」とは対照的な味わいのものを頂きました。
 そして兵庫の無濾過純米「播州」。雄町を使った、力強い味わい。どちらかというと雄町はピークが後から来るタイプなのだそうですが、実際アタックよりもアフター・テイストの方に重心があるようです。お吸い物とはほぼ完璧な相性。
 ←ハモのお吸い物。まさしく出汁の世界。塩が控えめなところがGood!

 ハモの刺身とウニとアワビには、以前にも用意したことのある「マルセル・ダイス・シェナンブール」を。こちらは2003年物。アルザス三大生産者の中で、ふぐの会では三姉妹の作る優しい「ワインバック」を推薦しましたが、より攻撃的な肉食の鱧では、喧嘩っ早いと評判の「マルセル・ダイス」で……。かの「神の雫」では、「日本人とドイツ人の生真面目さには共通点がある」ということで、京都のハモ料理にお手頃価格のドイツのリースリングを合わせていたので、それも検討はしたのですが、やはりここはアルザスワインを取り上げたいところ。もう少し熟成したものが欲しいところでしたが、果実味のある甘い味わいは、逆に日本酒を制して刺身と抜群の相性を見せてくれました。品種特性よりもテロワールを重視したブレンドワインですが、リースリング主体の正統派の味わいは確かにどこか安心感がありました。
 対する日本酒は石川の「古都いずみ」と岡山の無濾過純米「花巴」。特に「花巴」はアワビの肝とぴったりでした。
  ←ウニとアワビ

 さて、今回は趣向を変えてロゼも用意。まだまだ日本ではマイナーな存在に甘んじているロゼですが、海外では白以上の存在感を見せています。南仏でもレベルの高いロゼが続々登場、との記事を「ワイナート」で読んで、これはと思ったのが「シャトー・シモーヌ2007年」。1921年から変わらないといわれる独特のラベルも魅力的ですが、オーク香があり伝統的な手法で造られたしっかりした風味のロゼは、食相性も抜群。
 あまりにも気候に恵まれた南仏、潮風に吹かれるプロヴァンスで作られる大量生産のロゼ。その中でも「パレット」は、エクス・アン・プロヴァンスのすぐ東にあるごく小規模なアペラシオンで、実際質的にこの真面目な生産者、シャトー・シモーヌで成り立っている、と「ワイナート」にも紹介されています。 地中海に近いプロヴァンスのロゼなら、海産物とも合わせやすい気がしました。
 ←「シャトー・シモーヌ2007年」  ←ハモの肝

 ハモを巡るワインと日本酒の饗宴も、10本目に差し掛かる頃になると記憶も定かではなく……次に開けたのはブルゴーニュの赤ワイン。ピノ・ノワールは先の発泡性にしても白にしても、はたまたロゼにしてもその繊細な味わいがうまくいけば和食の素敵なパートナーとなり得るわけですが、誰もが口を出したくなるブルゴーニュでは、敢えて日本人の生産者を……ということで、「天・地・人」のラベルで有名な「ルー・デュモン・コルトン2002年」を用意しました。10年近い熟成を経ているとはいえ、やはりコルトンクラスとなるとまだまだこの段階では真価を発揮するまでは至らず……の印象。まだ若かったですね! 果実味が前面に出ているので、非常にフルーティで、かすかにムスクの風味も醸し出してはいるものの……充分に香りを引き出す前に飲み干してしまいました。ちょっと勿体なかったか……。
 次に炊き込みご飯に合わせようと、デカンテーションして用意していたのが「シャトー・ボーカステル・シャトーヌフ・デュ・パプ・ブラン2005年」。シャトー・ボーカステルのシャトーヌフ・デュ・パプの白が真価を発揮するのは10年後で、下手すると2005年物は今段階では閉じている、とサイトに記されているのを直前に見て、これはやばいかもとデカンターを用意したのですが、それでも「まだ閉じている」という印象はぬぐえず、こちらもやはり少々勿体なかったかなと思ったわけでした。酸味控えめ、アルコールとボディ高めの南仏の白という選択、本来ハモとの相性は疑問符がつくところで(ワイン売り場などで色々聞いてみたところ大半が懐疑的でした……)、ある意味チャレンジではあったのですが、もう少し考察の余地はありそうです。

 ←「ルー・デュモン・コルトン2002年」 ←「シャトー・ボーカステル・シャトーヌフ・デュ・パプ・ブラン2005年」

 結論として、ハモづくしの和食に合うワインは……海に棲む肉食魚ということで、海の近くのワイナリー、もしくは石灰質土壌の特性を活かした、しっかりしたミネラル感のあるワインがお勧めでしょう。香りは華やかで、ある程度甘味があり、酸味は……これは梅肉和えなのか、お吸い物なのか、焼き物なのかで微妙に異なるところですが……ある程度しっかり酸があって余韻のあるタイプの方が良いようです。



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