「エチュード」97年



ワインスカラ主催のワイン試飲会。新宿の「スイス・シャレー」にてカリフォルニアのカルトワインのテイスティング。本当はかの有名な「ハーラン・エステート」が飲めるというのでエントリーしたんだけど、今回は見送り、ということだそうで、残念! 試飲アイテムは以下の通り、白二種、赤四種。
「オー・ボン・クリマ・ラ・バージュ・ダ・コテ・シャルドネ96年」
 オー・ボン・クリマはセントラルコーストやオレゴンから葡萄を購入して作っていますが、これは自社畑なんだそうです。色が濃いめで香りも重厚、ムルソーあたりのかすかな樽香のニュアンスも感じられ、いかにも正統派の堂々としたシャルドネ。
「ミウラ・ナパ・ヴァレー・シャルドネ98年」
 セインツベリーの元ワインメーカー、バイロン・コスゲが起こしたワイナリー。まだ自社畑を持っていないので、カーネロス地区のクロ・ベガスのミツコ・ヴィンヤードの葡萄を購入して作られた、わずか560ケースしか生産されないもの。今は50ドル程度だけど、そのうち値が上がりそう。びんに直接「ミウラ」と印刷されていました。上の「オー・ボン・クリマ」に比べて、香りはフレッシュでどことなくリースリングなどドイツワインの持つ華やかな雰囲気。色は明るめで味はまろやか。それにしても「コスギ」といい「ミツコ」といい「ミウラ」といい、なんか日系の名前ばっかり。
「エチュード・カベルネ・ソーヴィニョン97年」
 人気醸造家トニー・ソーターが自らのために作るワイン。レンタル・ワイナリーでピノ・ノワールとカベルネ・ソーヴィニヨン合わせて2000ケース。トニー・ソーターが手掛けたワインは、あの「スタッグス・リープ」にはじまり、「クロ・デュ・ヴァル」「シェイファー」「スポーツウッド」「ニーバウム・コッポラ・ルビコン」「ダラ・ヴァレ」「アロウホ」といった著名な超高品質な作品ばかり。他のカベルネに比べてどこか甘い香りが感じられ、メルローをブレンドしているのでは? と思ったんだけど……。価格は「高くしたくない」というトニー・ソーター本人の意向から100ドルくらいですが、人気があるのでお店の方で「他のワインと一緒なら」その値段で売る、という条件を付けているそうです。
「ダラ・ヴァレ・カベルネ・ソーヴィニョン97年」
 1986年創立の新しいワイナリー。97年に亡くなったグスタフ・ダラ・ヴァレの後を妻のナオコが引き継いだとのこと。グスタフはイタリアのワイナリーの生まれで、ワイナリーを手放してアメリカに渡り潜水用品の会社で世界一になったのにもかかわらず、晩年はナパにワイナリーを作った方。日系のナオコさんとはかな〜り年の差があったようですが、愛嬢の「マヤ」の名を持つワインは超カルトで、300ケース程度の生産量。この「ダラ・ヴァレ」は1500ケースほどで、値段も「マヤ」の半分以下だそうですが……。こちらにはメルローが若干入っているようですが、飲んだ印象ではかなり尖った感じ。ワインメーカーは96年までハイジ・ペーターソン・バレでしたが、「グレイス・ファミリー」「スクリーミング・イーグル」等の超級ブランドを作るようになったので、今では先のトニー・ソーターに代わったとか。
「ハートウェル・サンシャイン・ヴィンヤード・カベルネ・ソーヴィニョン97年」
 スタッグス・リープ・ディストリクトの中心にあるエステートワイナリー。一部グレース・ファミリーの畑から切り取った穂木を植えた畑のワインはグレース・ファミリーのワイナリーで醸造、一方このサン・シャイン・ヴィンヤードのワインは自宅のミニ・ワイナリーで作るのだとか。私は四つの中ではこれに少しシラーっぽい印象を感じたんですけど。
「オーパス・ワン96年」
 言わずと知れたバロン・フィリップとロバート・モンダヴィのコラボレート。昨年ロスに行った時には、「オーパスなんか」という話をちょっと耳にはしていたけれど、あらためて飲むと四つの中では一番ムスク香というか、熟したカベルネに感じる野生っぽいニュアンスが感じられ、やっぱりさすがだなと思わずにはいられません。
 さて、赤の四種はブラインドで試飲したのですが、一番気に入ったのが「エチュード」"etude"とは「練習曲」を意味していて、おそらくは「試作品」みたいな意味合いをこめて名付けられたと思うのですが、それだけに逆にストレートな、気負いのないのびのびとした印象を受けました。雑誌で読んだところ、このエチュードのワイナリーは他人の畑の中にある借家。あくまで実務的なものなのだそうです。

 さて、「スイス・シャレー」の試飲会の後、夜は家族とヒルトンの「トウェンティ・ワン」で会食したのですが、弟の好みはやはりカリフォルニアのカベルネ、ということで締めくくりはこの「ロバート・モンダヴィ・オークヴィル」。季刊誌「ワイナート」では「分厚い果実味とたくましいタンニンがまさに典型的にテロワールをあらわす」と書かれてますが、確かに力強くてもう少し寝かせた方が愛想が良くなるかも、という印象。ちなみにロバート・モンダヴィといえばテクノロジーを駆使するやり方で知られていて、積算温度では把握できないミクロクリマを、葡萄の葉の温度を人工衛星から測定するシステムを開発することで読みとるほどですが、発酵に関してはステンレスのロータリー・タンクをやめて木製の上面開放型の発酵槽を使用しているとか。より温度管理を徹底できるステンレスを選ぶか、フレーバーを生み出す木樽を選ぶかは一概に決めつけられない問題でしょうが、かのシーザーがガリアの地で発見したケルト族のビールの木樽がワインに使用されて以来、ずっとワイン醸造を支えてきたことを思えば、納得のいく選択ではあります。



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