08年/「SFセミナー」報告
●Speculative Japan始動!
40年ぶりにニュー・ウェーブについて語ろう、というコーナー。SFのニュー・ウェーブと言えば「結晶世界」のバラードでしょう、ということで、私の持っている知識なんて所詮そこまでレベルなんですが。何となくイメージとして、それまでの「アイデア至上主義」や「パターン化されたストーリー」から脱却して、より文学的な、より人間の内的世界を描いた作品を目指そうという60年代のムーブメント、というのが一応ニュー・ウェーブなんだろうなあと漠然と思っていました。
中にはこれに拒絶反応を起こす人もいるようで、以前にSFセミナーに登場した「二重螺旋の悪魔」の梅原克文氏などは「バラード許すまじ」と真面
目に主張していたほどでした。エンターテイメントとしてのスピリットを失ってはならない、というのがポイントだったようですが、私としてはSFも色々あった方がいいじゃん、と単純に考えていましたけど……。
以前通っていた空想小説ワークショップの講師でもある川又先生も登場されていたのですが、少なくともこの昼の部では、殆ど話に口を出すことはなかったような…。ちなみにこの企画の打ち合わせの際、荒巻先生と川又先生が参加されると聞いた若手からは「ニュー・ウェーブって架空戦記物のことなんですか?」との発言があったとか。
●海洋SF〜SFから見るという海のフロンティア
近年海洋SF作品を発表している藤崎慎吾氏インタビュー。取材のために昨年海洋開発研究機構の海洋探査機SHINKAI−6500に搭乗したので、その報告をスライド上映で。
深海の音も録音!……といいつつも、殆どが潜水艇の機械が起こす騒音ばかりで何が何だか……。
普通の石に記憶蓄積する話や、微生物が地震を起こす話など、なかなか興味深い話題もあったものの、今ひとつピンと来ませんでした。藤崎氏の作品は「クリスタル・サイレンス」以外読んでいないので、まずは他の作品にも目を通
してからでないと難しいかも。
●ショートショートの現在
ショートショートの神様、星新一の作品一覧とその歩みを解説。こうしてみると、既に眉村卓氏が千作以上のショートショートを書いているにも関わらず、やはりその歴史は星新一に始まり星新一に終わったのだなあとあらためて納得した次第であります。もっとも最近ではひところの長編ブームの反動か、あるいは携帯小説の普及のためか、ショートショート再評価の動きもあるようで、井上雅彦氏編「異形コレクション」でも、「ひとにぎりの異形」というタイトルでアンソロジーを組んだら、すぐに重版となったそうです。
そう言われると気になって、さっそく会場で購入してしまいました。読み返してあらためて思ったのですが、やはり私にとってのショートショートはしっかりとしたアイデアで、限られた枚数の中でちゃんと予想外のオチをつけてくれるものがベストのようです。
●電脳コイルの世界
NHK教育で昨年放送されていたアニメ番組の制作者磯氏のインタビュー。本編作品を観ていないので何とも言えませんが、電脳生物を見ることができる電脳メガネの話らしい。何でも当初のコンセプトは「女の子版ゲゲゲの鬼太郎」なんだとか。「私のSFはサイエンス・フィクションではなくサイエンス・フェチです」という言葉が妙に印象的だったりして……。
●Speculative
Japan始動!番外編
午前の部の続き。バラード、光瀬龍、筒井康隆、川上弘美等を巡るニュー・ウェーブ議論。話は映画「2001年宇宙の旅」「スター・ウォーズ」「エイリアン」にまで及び、どちらかというとSF花盛りの頃の楽しい思い出話に落ち着いたような感があります。川又先生は道に迷ってしばらく遅れてご登場されましたが、お酒が入ったこともあっていつものワークショップ宴会の調子で盛り上がりました。
●アニメ企画〜2008年春期発動アニメ一覧
春の新作も50近い作品が目白押し、といってもかなりシリーズ続編が多いようですが。相変わらず2/3以上がSF・ファンタジー系の作品で、これでどうしてSFが冬の時代なのかよく分かりませんが、まあ設定とビジュアルがSFチックなだけで、内容的には学園物ばっかりだったりするんだろうな。個人的には押井氏の「攻殻機動隊」を思わせる海洋・老人SFと、清水玲子原作の「秘密」あたりに興味がありますが、新潟でやってるんだろうか。
●非英語圏SF映画上映会
昨年同様、日本で公開されることのないアジア方面
のSF映画を鑑賞しようというコーナー。
最初は英語圏だけど日本未公開作品と言うことで、アメリカの「ニュー・ローズ・ホテル」(98年)。ギブソン原作、ウィリアム・デフォー主演、クリストファー・ウォーケン共演、坂本龍一ゲスト出演(「戦場のメリークリスマス」「ラスト・エンペラー」に続く3番目の映画出演作!)という超豪華メンバーにも関わらず、あまりに内容が単調なので話題にならなかったとか。実際観てみると、おじさん二人の盛り上がらない会話が延々と続くだけで、確かに視覚的なインパクトなどこれっぽっちもありません。
次はフィリピン映画。「キャプテン・バーベル」(03年)。フィリピンではラモン・リベラ・Jrという男優が人気者らしく、いくつも主演作があって、本人も父親もそろって俳優業と上院議員を兼ねているという超有名人。何でも実際にバスジャック犯人を説得して事件を解決したこともあるそうで、その意味では実生活でもアクション・ヒーローなんだとか。さて、このキャプテン・バーベル、アメリカのヒーローであるキャプテン・マーベルと一字違いですが、バーベルを持ち上げて変身するという変わり者で、それだといちいちバーベルを持ち歩かなきゃならないから大変だろうと思いきや、変身したい時いつでも自在にバーベルが出現するので全く困らないのでありました。敵はバットマンの悪役を彷彿とさせる「虐げられた人々が超能力を得て復讐する」パターンで、子供を助けたのに誘拐犯と間違われて暴行された不幸な浮浪者は、唯一の家族だったネズミ達と合体してネズミ男に変身、そのままキャプテン・バーベルに倒されるという、おいおいそれじゃあんまり可哀想でないかいみたいな展開の映画でありました。
続く「エクソダス」は、世界を守るために「火」「水」「風」「土」の精霊達を見つけに異世界に向かう主人公(「キャプテン・バーベル」と同じくリベラ氏主演)の物語。ほぼ「フィフス・エレメント」の設定を踏襲しています。戦闘シーンの雰囲気は「ロード・オブ・ザ・リング」(ちょっと低予算)。うーん、相変わらずハリウッド映画からのパクリのごった煮状態の内容ではありますが、それなりに楽しめてしまうのも確か。数年か十数年後には、案外オリジナリティのある面
白い作品を観ることができるかも。
●川又千秋と70年代を語る
こちらが映像モノの部屋に入っている間も、ずっと議論は続いていたようで、川又先生は荒巻先生がいないこともあってますます辛口トークに。といいつつ夜もかなり更けて午前2時になろうかというのに非常に白熱した議論が…。こちらは別
に睡眠不足というわけではなかったんですが、さすがに睡魔には勝てず、そのまま部屋に戻って寝てしまいました。以前はしっかり完徹して朝まで映像と議論に夢中になったものですが、う〜ん。