9月


【映画】リドリー・スコット「プロメテウス」
 
人類の起源を検索してはいけない…というキャッチコピーが有名だが、基本的にはスコット自身が監督した映画「エイリアン」1作目の前日談。「エイリアン」の中でエイリアンに襲われた異星人の廃墟化した宇宙船が登場するが、今回はそちらに主眼があり、エンジニアと呼ばれるこの異星人がどうやら地球人類の生みの親ということになっている。映画の冒頭、人間と同じ肉体を持った白い皮膚の異星人が、自らの体を溶解して海へと身を投じるシーンがあり、異星人のDNAが海の中で再構成されて地球の生命の源となったことが暗示されているのだ。
 そして舞台は2089年のスカイ島に。考古学者達はそこに星を示す巨人が描かれている壁画を発見する。エジプト、マヤ、シュメール、バビロンにも同様の絵柄が遺跡として残っており、学者達はそれを人類の創世者のメッセージと考えて、その遺跡が示す星へと旅立つことになる。ウェイランド社の莫大な資金を背景に、「プロメテウス」と名付けられた宇宙船に同乗するのは、主人公の考古学者エリザベスを含めた科学者と、一体のアンドロイド、デイヴィッド。しかし、その目指す惑星に到着する者達は、エンジニア達の大量な死体を発見する。エリザベス達がその死体の一部をなんとか蘇生させようとする一方で、アンドロイドのデイヴィッドは、遺跡に残された不気味な黒い液体を持ち帰り、エリザベスの夫であるホロウェイ博士に飲ませてしまう。死体となった異星人が、人類と同じDNAを持っていることが判明した矢先、ホロウェイ博士は異生命体へと変貌し、関係を持っていたエリザベスの腹部にはタコ状の異生物が寄生する……。
 スコット監督によると、スカイ島以外の遺跡は全て実在の物だとか。自動探査機を使った遺跡の調査風景も、ある意味時代的には後になるはずの「エイリアン」1作目よりもより理にかなったものになっています。一方で登場人物達の行動が一貫性に欠けるような。アンドロイドであるはずのデイヴィッドが黒い液体をホロウェイに飲ませたのは何者かの指示なのか単なる好奇心なのか、船長であるシャリーズ・セロンの行動も深いわけがあったのかなかったのか結局のところなんだかよく分からないし…ということで、一般の評価も今ひとつのようです。

 さて、「エイリアン(Alien)」(1979年)は、第一作のヒットを受けて次々と別の監督によってシリーズ化を余儀なくされています。富樫義博は「レベルE」で登場人物に「映画のエイリアンってもう続編作るべきじゃないよね」と言わせていますが、続編を撮った監督は皆実際のところやり手ばかりで、その後にしっかりヒット作を作っていたりします。第2作「エイリアン2(Aliens)」(1986年)「ターミネーター」を成功させたカナダ出身のジェームズ・キャメロンが監督。ギーガーのダーク・ゴシックな雰囲気とはがらりと変わったSFアクションに仕上げましたが、その後撮った「ターミネーター2」「タイタニック」「アバター」は歴代興行収入1位2位の超ヒットに。第3作「エイリアン3(Alien³)」(1992年)デヴィッド・フィンチャーの初監督作で、かなり酷評されたものの、その後撮った「セブン」は文句なしの傑作、近年の「ソーシャル・ネットワーク」も話題になりました。第4作「エイリアン4(Alien: Resurrection)」(1997年)「デリカテッセン」「ロスト・チルドレン」を撮ったフランス出身のジャン・ピエール・ジュネが監督。ヨーロッパの監督ということもあってどこか不健康なグロテスクさが原点回帰と言われましたが、こちらもその後「アメリ」が大ヒット。というわけで、エイリアンシリーズは、それ自体は色々と紆余曲折あって統一感があるとは言い難いのですが、様々な映像作家の腕試し的な要素の強い作品群となっている気がします。1,100万ドルの制作費で四苦八苦だった1作目の「エイリアン」は興行収入一億ドルを突破、以後制作費は膨れあがり、4作目は7,500万ドル、そして今回の「プロメテウス」は1億3000万ドルに達したとか…。

 ある意味原点回帰を目指して、第一作の監督であるリドリー・スコットに、「エイリアン」シリーズ5作目の依頼が来たのが2000年頃のこと。元々が「エイリアン」5作目の企画だったので、「プロメテウス」がエイリアン誕生譚であるのは否めない。スコット監督が単なる「エイリアン」シリーズの延長にしたくなったのは分からないでもないですが、無理して「人類の起源は…」というキャッチコピーにしたのは実際どうよという感じもします…。


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