ワインツアーレポート〜イタリア名醸地を訪ねる(Sicilia, Firenze, Milano)

第六日(1/16.Thu.)「トスカーナ、アンティノリそしてウフィッツィ美術館」

 この日は本来なら終日フリーなのですが、オプションでアンティノリを訪ねるというので、迷わずそちらに参加。結局一部の人を除いて殆どのメンバーがアンティノリ訪問に同行しました。
 九時四十分から十時十分まで、クレーベ・イン・キャンティ地区を散策。とりあえずあまり時間もないので、お店でイノシシのラードとワイン風味のサラミを購入してみました。

ANTINORI

 十時五十分、アンティノリに到着。まず辿り着いたのは「BADIA A PASSIGNATO」。アメリカ人の女性、Bette Ann Bierwirthさんが案内をしてくれました。頂いた名刺に「Publiche Relzioni」とあるからおそらく広報担当の方なのでしょう。ここは今も現役の、1000年前からあるベネディクト派の修道院で、四人の修道僧がいるそうです。現在も日曜日だけお祈りの会が開かれているとのこと。84年にアンティノリ社が購入、サンジョベーゼのみが植えられており、樹齢もまだ14年と若い。1996年からサンジョベーゼ100%が法令化され、1998年からキャンティ・クラシコ・リゼルバを名乗っています。96年以前はサンジョベーゼに他の品種を混ぜることになっていたので、逆に名乗れなかったのです。
 
 修道院の地下にセラー。自社の設備だけでは敷地が足りないので借りているのだそうです。今新しいセラーを作っているので、二年後はレンタルしなくてもよくなるとのこと。
 修道院の近くに井戸がありました。15世紀にメディチ家が地下水を発見して使用していたそうで、壊れていたのを二ヶ月ほど前に再び使えるようにしたのだそうです。ちなみに修道院では今でもオリーブオイルを作っており、修道僧はワインの醸造には一切タッチしていません。
 セラーを見学。樽はフランス産が主体だが一部アメリカやオーストラリア産のものも。ワインは樽で14ヶ月寝かせた後、瓶でさらに一年熟成させてから販売。セラーの上部に一部窓の跡がありましたが、昔はここから籠を吊るして保管していた食糧などを取りだしていたそうです。
 修道院の出口にあった植物が枯れていました。なんでもマイナス八度まで気温が下ったため、枯死してしまったとのこと。かわいそう〜。
 修道院を離れ、バスで「Fonte de Medici」という施設を訪問。これは一軒ずつ家を1週間貸すというもので、宿泊費用はしめて20万円位 。もとは山羊のミルクを使ったペコリーノチーズを作っていた所だという。ここからティニャネロの畑が見渡せます。この畑の一部がかの有名な「ソライア」
 再びバスで移動、以前アンティノリ家が住んでいたという屋敷にてテイスティング。
 基本的に97年から2001年までは安定した良いビンテージが続いたとのこと。2002年はモンタルチーノとモンテプルチアーノはオーケーですが、ティニャネロは作らないそうです。それに回す予定だったブドウは全てテヌータ・マルケーゼ・アンティノリに回すとのことで、ということは2002年のマルケーゼは相当お買い得だということらしいです。

・PEPPOLI Chianti Classico 2000
 サンジョベーゼ90%+メルロー10%。リゼルバではなく、大樽のみでの発酵。深い赤紫。ライトでフレンドリー。樽香はない。
・VILLA ANTINORI Chianti Classico Riserva 1999
 サンジョベーゼ90%+カナイオロ10%。樽熟香が加わる。
・Tenute Marchese Antinori Chianti Classico Riserva 1999
 サンジョベーゼ90%+カベルネ・ソーヴィニヨン10%。ラベルに小さく描かれているのがテイスティングしているこの館だという。テヌータは自社畑のこと。飲み込んだ後に香りが戻ってくるような力強さのあるワイン。
・TIGNANELLO 1999
 サンジョベーゼ80%+カベルネ・ソーヴィニヨン20%。99年はベスト・ビンテージでしかも早飲みできてかつ長持ちするという。スタイルは前述のテヌータと似ている。結構柔らかい。案内役のBetteさんに言わせるとセクシーなワインなのだという。ソライアより気に入っているとのこと。ティニャネロは市販に向けては51ユーロで売っているが、一部のレストランには35ユーロで売っている。
・BADIA A PASSIGNANO 1999
 サンジョベーゼ100%。しかし確かに言われる通り、カベルネをブレンドしたティニャネロよりもよりパワフルで重く感じる。「飲むというより嚼むワイン」とは言い得て妙だ。言われなければサンジョベーゼ100%とは思わないだろう。案内役のBetteさんは、ここを気に入って自分の飼っている小猫にバディアと付けたのですが、オスと気付かず女名を付けることになってしまったそうです。後からバディと改名したらしい。
 バディアのマーケットプライスは現地ではティニャネロと同じ位ですが、日本では知名度の差からティニャネロの方がずっと高いようです。

 昼過ぎにアンティノリを引き上げバスでトスカーナへ。
 ガイドブックの高級レストランの欄にも掲載されている、アンティノリの直営店「カンティネッタ・アンティノリ」に到着。午後二時半までしかやっていないというので、午後一時半に間に合うよう慌ててやってきたのですが、むしろ二時を過ぎた頃から人が集まり始めました。
 ここでは各人グラスで飲もうということになり、私は魚介類のリゾットを注文したので、白のCONTE della VIPERAを注文。非常にきれいな、シャルドネに似た印象の白。後でパンフで確認した限りではソーヴィニヨン・ブランを主体に少しシャルドネを混ぜたもの。他の皆さんは「グアド・アル・タッソ」をはじめとして多くの人が濃いタイプの赤を選んでいました。
 三時頃にはお開き。I先生はこのままワインショップ「エノテカ・アレッシ」に行くという。Oさんもウフィッツィ美術館に行きたいというので、同行することにしました。店からまっすぐ東に向かって歩くとジオットの鐘楼があるドゥオモへと出ます。そこから少し南に歩いた所でエノテカを発見! しかし午後四時からしか開いていない。確かによく読むとガイドブックにもそう書いてある……。開店まであと三十分ほどあるので、私とOさんは先にウフィッツィ美術館に行くことにしました。エノテカからまっすぐ南へと一本道を歩いていくと、コの字型をしたウフィッツィ美術館はすぐに見つかりました。入場料は7.5ユーロ。
 Oさんはフィリッポ・リッピの聖母がお気に入りで、しばらくそこを観たいとのこと。なかなか渋い趣味であります。五時半に出口で待ちあわせることにしてしばし自由行動。

ウフィッツィ美術館
 
 ボッティチェリの「ビーナス誕生」「春」の二つの代表作と、レオナルド・ダ・ヴィンチの「受胎告知」「東方三博士の礼拝」等はさすがにガラス板で守られていましたが、その色調は控えめで、印刷で見るものとはかなり印象が違います。ダ・ヴィンチの「東方三博士」などは未完の下塗りなので、印刷で見ると実にぺらっとした印象ですが、当然ながら実物は奥行きを感じさせる深味のある色合いとなっていました。
 印象的だったのはピエロ・デ・コジモの「アンドロメダの解放」。幅120センチ程度の小品ながら、中央で蠢く怪物が実にリアルであります。周囲に群がる人々の描写 もどことなく幻想的。後でガイドブックで読むと人々が持っている楽器は実在しないものなのだそうです。クラナッハの「聖母」は幼子イエスの顔がどことなく歪んでいてかえって印象的。他にもメムリンク、ホルバイン、アルトドルファーなどの作品が並びます。アルトドルファーの「聖フロリアヌスの殉教」は、ミュンヘンのアルテ・ピナコテークで観た「イッソスの戦い」のダイナミズムとは対照的な、きわめて落ち着いた絵で逆に意外でした。
 ミケランジェロの「聖母子」の前で、日本人ツアーの女性のガイドが「ミケランジェロ君はね……」となかなかユニークな解説を披露していました。なるほど話として聞くには分かりやすいかも。教皇ユリウス二世がミケランジェロにシスティナ礼拝堂の天井画を描かせた経緯を面 白可笑しく説明していました。ミケランジェロの「聖母子」では、マリアは幼子キリストを「どっこらしょ」と担ぎ上げるような格好をしています。より筋肉を強調するためだったそうです。その隣にはラファエロの「レオ十世」の肖像画と自画像、そして「ヒワの聖母」(印刷で観るよりも遥かに暗く落ち着いた印象)がありました。
 パオロ・ヴェロネーゼの「聖ユスティナの殉教」は、黒人が白人女性の胸に短剣を突き刺しているというショッキングな場面 を描いていて、女性が身にまとった服のひだの光る部分がどことなくモザイク的で新しさを感じました。同じヴェロネーゼの「聖家族と聖バルバラと聖ヨハネ」では、幼子キリストが左手で股間を押さえているのが妙に印象的。
 ティントレット、ヴァサーリ、そしてエコポ・ズッキと続く。ズッキの「銀の時代」は、女性の顔がどことなく線画的で、ちらりと斜めにこちらを向いた表情が少女漫画のよう。フェデリコ・バロッチの「Madonna dei Popolo」(ガイドブックによれば「少女の肖像」だろうか)は、人物がすべてほんのりと頬を染めているのがご愛嬌。
 カラヴァッジオの「メドゥーサ」のコーナーへ。色々と修復に関する説明らしきものが一杯に展示されているのですが、イタリア語オンリーなので良く分からず。丸い凸 状の盾に描かれたメドゥーサはやたらと迫力があります。ガイドブックには「修復中」と書かれていてややトーンの抑えられた絵が載せてありますが、実物はかなり色調鮮やかに再現されていました。「バッカス」「イサクの犠牲」は暗い背景の中に浮かび上がる人物が生々しくていいです。その隣にはキリストの横腹の傷に手を入れる聖トマスを描いた特徴的な絵がありましたが、「Copia antica da Caravaggio」と記されていた。複製画ということでしょうか。さらにその隣にもいかにもカラヴァッジオ的な生々しい絵、「Giuditta e Oloferne (Artemisia Gentileschi 1593-1652)」がありました。何故かガイドブックにも載せられていないのですが、男の首を女二人が剣で切り落とそうとしている絵です。血がベッドの上の白いシーツに染みを作っているあたりが非常にリアルで迫力があります。背景が真っ暗なのも効果 的。「Sant' Andrea Corsini (Guido Reni 1575-1642)」は、教皇の様な格好をした老人が天に出現した三人の子供の顔に向かって祈っている図なのですが、中に浮いた三つの子供の顔がなんか生首のようで異様な印象を受けました。
 ルーベンスの大作やレンブラントの自画像などメジャーな作品も並んでいました。カナレットの「ヴェネツィアのドゥカーレ宮殿の風景」は、その完璧な透視図法についてガイドブックでも解説が載せられているのですが、何よりもその絵の持つ透明感に感銘を受けました。こういう風景画が描けたらいいなと思わずうっとり。緻密でしかも写 真にはない趣があります。
 ゴヤの作品も。「マリア・テレザの肖像」と、そして「Ritratto della contessa di Chinchon」の馬に乗った青い服を着た貴婦人が、なんとなくゴヤっぽくなくて逆に面 白いです。「Maria Zeffirine di Francia (Jean Mare Nattier 1685-1766)」の、まるで人形のように両手を広げた少女の肖像も、何故かガイドブックには記載はないものの印象的な作品でした。
 一時間半の間にじっくり見て回るのはちょっと無理でしたが、ルーヴルと違って回りきれないほど広いというほどでもなく、密度が濃いのである意味短時間でも堪能できます。しかし薬が切れたのか、汗ばんできて後半ややしんどかったです。館内のバールでミネラルウォーターのPETボトルを購入し、下の売店へ降りるとそこではOさんも買い物中。日本語版ガイドブックとお土産に鉛筆を十本ほど買ってウフィッツィを後にしました。

 そのままOさんと夕方閉まっていた「エノテカ・アレッシ」へ。「日本へも配送いたします」と手書きの紙が店内に貼ってあり、日本人女性の店員さんもいて入りやすい雰囲気。しかし配送するといっても一本二千円近く送料がかかるのであまり得にならない……。結局色々と悩んだ末、「カスティロ・ディ・アマ」「リヴァナーノ・プロ・サンゲ」「テルーノ・キャンティ・クラシコ・リゼルバ」「ギュスト・ディ・ノトリ」の四本を購入。トータル160ユーロなら20%減額免税という言葉につられてしまったのです。もっとも訪問できなかったシチリアの「スパダフォッラ」など、本当の意味で欲しかったものはあいにくと置いていませんでした。
 ウフィッツィ美術館をバックに写真を撮ってもらい、川沿いの道をずっと歩いてホテルへ戻る。しかし地図で見るのと実際に歩いてみるのとでは結構勝手が違っていて、ホテルのロビーで七時四十五分に集合の予定でしたが、余裕で間に合うかと思っていたのに結局ぎりぎりになってしまいました。

 ←ウフィッツィ美術館を背景に……見えます?

 そのまま急ぎ部屋に戻って荷物を置き、タクシーで分譲して広場近くのワインバー「Boccadama」へ。ここはかなりの種類のワインが置かれていて、空になったボトルが壁一面 に飾られていました。
 お決まりの生ハムとチーズが並べられ、さてワインをセレクション。私が選んだのは白の「ヴェルデッキオ・ディ・カスティーリ・イエジ」。アドバイザー試験にも出てきたトスカーナ唯一のD.O.C.G.。「僕これまだ飲んだことないんですよ」と言うと、Tさんからチーム2000のイタリアの会で開けたはずだとの指摘。後から調べたら確かにそうでありました。飲む機会は増えているのに、だんだん記憶力の方が衰えてきているみたい。
 私はローストビーフを注文したのですが、赤身を帯びてはおらずポークソティーのよう。赤はまずは私が「アマローネ97年」を注文、そしてI先生が店で買うより安い値段だからと「マセトー99年」を注文。「マセトー」はオルネライアの作るメルロー。オルネライアはロドヴィコ・アンティノリのワイナリーで、ロドヴィコはピエロ・アンティノリの弟。「マセトー」のラベルには「TENUTA DELL ORNELLAIA」の表記はあるがアンティノリの名前はありません。「アマローネ」は適度に熟度がありまさしく苦味のあるワイン。「マセトー」はメルロー種の濃密さが前面 に出ているワイン。
 ラベルをシールに剥がしとるシートはここにもあるということで、なんと私が持ってきたのと同じものが店で用意されました。「アマローネ」の方はお店の方がシートに転写 。やや皺と気泡と指紋の跡が見られる。そこで真打ち登場と「マセトー」の方は私がやることに。責任重大! しかしいざやってみると、ラベル中央の赤いマークが、そこだけインキが違うらしくうまく転写 できない。ここで失敗は見せられないと意地になり、どうしても転写できずに瓶にこびりついている部分をむりやりフォークで剥がして裏から貼り付けるという裏技を使う。皺と気泡のない状態で転写 して面目を保ったのでした。そんなこんなでラベル剥がしに熱中している間に、食べかけのローストビーフは下げられてしまいました。

 「MASSETO 1999」それでも赤いマークの端っこは傷が残ったのでした。

 デザートワインにヴィーノ・パッシート。「ELEUSI VILLA MATILDE Falanghina 1999」。鳥のラベルが愛らしい上品な甘口ワイン。
 満足した状態で再びタクシーでホテルに戻り、無事六日目終了。


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