「ベガ・シシリア・ウニコ」1973


 


 職場近くのスペイン風バーで、ワインリストを眺めながらワイワイやっているとき、たまたま話に上ったのが、リストで最高価格が付いているスペインワイン。
「ウニコって知ってます?」
「あ、それならうちにある……」

 と、いうわけで、結果としてセラーにあった「ウニコ」73年を飲むことになったのでした。うーん、何て思い切りがいいんだ。ネットで調べたら、買った時の倍の値段に値上がりしてるし。
 まだちょっと勿体ないかな、と思う一方で、どうせなら自宅でゆっくり楽しみたいものだと考え、それなりに準備をすることに。
 やはりスペインといえばハンモ・イベリコ。高いものは100gで6,000円以上するけれど、まあ手頃な価格帯のものを。スペインのチーズがあればいいのだけれど、手に入らないので代わりに今の季節しか食べられない、熟成してトロトロになったモン・ドールを。パスタの代わりにゆでたもちを使った「もちのラザニア」は和牛100%の挽肉で。「骨付きラムのロースト」は、バジルとクレソンをミキサーにかけて作ったグリーンソースで。オリーブオイルはもちろんスペイン産。
 総勢五名で3本のワイン、という極めて健康的なワイン会。一本目はシャンパーニュ「カナール・デュシェーヌ・シャルル七世」、まとめて買ったブリュットの最後の一本。
 
2本目は「シャトー・グリエ99年」、フランス国内で四番目に小さいA.O.C(約3.4ha)として試験にも出るローヌの白。なかなか手に入らないなあと思っていたら、渋谷東急で入手できました。使用されているヴィオニエは、酸が低く白い花の香りがする品種で、コンドリューなどでその典型的な華やかさが楽しめますが、このシャトー・グリエは驚くほどきつく樽の香りがしました。かなり焦げ臭に近いくらい。なるほど濃厚でパワフルなスタイルを志向しているのだな、と納得したのですが、ヴィオニエという品種とはある意味ミスマッチのような気も……。明るい、輝きのある黄金色で、酸味は控えめ。余韻あり。
 そしてメインの「ベガ・シシリア・ウニコ73年」であります。グラスに注いで見てびっくり。明るいルビー色をしていて、輝きもあり、それほど熟成を感じさせません。ベリー、プラム、その他植物系の複雑だけど軽快な香りがあって、ある意味ピノ・ノワールの印象に近いのだけど、熟成させたピノに見られるムスク香が殆ど感じられません。果 実味があって、活き活きしていて、なおかつ余韻が長い……30年以上寝かせていたとは思えないくらいの若々しさに驚かされました。
 「ウニコ」とは「唯一無二(ユニーク)」の意。樽熟成だけでも7年間(発酵を終えたワインはまず大樽で1年間熟成、続いて新品の小さな樽で2年寝かせられます。さらに古樽に移して4年。ヴィンテージによってはもっと長い熟成をさせることもあるとか。)を要し、瓶熟成も加えると10年以上経たないと出荷されないリベラ・デル・デュエロの逸品。スペインのDRCと呼ばれ、収量 はかなり抑えられ、チャールズ皇太子が結婚式に使いたがったが集められなかったと言われる逸話の多いワインですが、それにしても、この「ウニコ」といい、「カスティーヨ・イガイ・グラン・レゼルバ」 といい、フランス物とは異る熟成感を持っているところが共通 しています。フランス物がどちらかというと「麝香、ムスク香」が増し香水のようなニュアンスを帯びるのに対し、スペインの銘醸品はムスク香があまりない反面 、植物性の香りや果実味がより複雑になり、良質なプランデーにあるような曰く言い難い風味を持つようになります。おそらくテンプラニーリョという品種の持つ独特の芳香と、長い樽熟期間によるものなのでしょうが、食全般 に渡って、フランスやイタリアとはちょっと異る独自のスタイルがあるのかも。ドングリの風味を持つハンモ・イベリコや、ナッツの香りがするオリーブオイルにも、フランスやイタリアには見られない物です。ワインの生産量 は世界3位だけど、ブドウ畑の面積は世界1位というスペイン。仏・伊には負けないぞ、という自負心やこだわりを感じてしまうのです。



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