Via Vino No. 40 "Gibier Dinner"<ジビエ・ディナー>

<日時・場所>
2011年12月3日(土)18:00〜21:00 広尾「マノワ」 
参加者:15名
<今日のワイン>
白・辛口・発泡性「シャンパーニュ・ジャン・ボバン・コンニー ・ブリュット」
白・辛口「ドメーヌ・アンドレ・ヌヴ・サンセール・レ・ロング・ファン2008年」
白・辛口「ドメーヌ・オステルタグ・リースリング・ヴィニョーブル・デ 2009年」
白・辛口「ドメーヌ・ジル・ブートン・サン・トーバン・レ・ザルジエール 2009年」
赤・辛口「ドゥラス・クローズ・エルミタージュ・レ・ローヌ 2009年」
<今日のランチ>
3種のマノワのアミューズ
くぬぎマスとホタテ貝のミルフィーユ仕立て
オマール海老の4種の調理法
魚料理
蝦夷鹿とフォアグラのパイ包み焼き
アップルパイのムース仕立て、紅茶のアイス添え

     


1.ワイン会「Via Vino」40回の振り返り
 
 2006年5月から始まった「ワインを楽しみながら学ぶ会・ViaVino」も、今回でいよいよ40回目を迎えることとなりました。毎回テーマを変えて展開してきたこの会ですが、今回はスペシャル・ディナーと題して、全40回の道のりをあらためて振り返りたいと思います。
 フランスのブルゴーニュとボルドーに始まり、ヨーロッパの主要生産国から、新世界、中東、そして極東の島国・日本に至るまで各国のワインを紹介しつつ、映画やアート、戦争など、さまざまな切り口からのアプローチも試みました。全体を通して、我ながらかなりユニークなワイン会を展開してきたと考えています。

【フランス、イタリア、スペイン】

 古代ギリシャから古代ローマ、そして中世を経てフランスに定着したワイン文化は、キリスト教と同様に、発祥の地である中東を離れて、ヨーロッパ文明の根幹となっています。  
 フランスワインでは「格付け」が重視されますが、その厳しさこそがワインの評価を揺るぎないものにしてきました。その背景には、明確な基準を作り世界へ広めていこうという強い意志があります。一方基準から逸脱することも多いイタリアワインでは、国家以上に「家族」の結びつきが重視され、実際アンティノリ家、フレスコバルディ家といった名家が、地域を越えた幅広い活動を行っています。そして第3の生産国であるスペインでは、ガウディやピカソ、ダリの作品や「エル・ブジ」の料理に見られるように、国家や家族への帰属意識よりも、より強い「個性」へのこだわりが見られるように思うのです。

【そして、新世界から 

 そのヨーロッパも、今やユーロ財政危機であまり明るい話題を目にすることがありません。PIIGS諸国などと揶揄される国々にワイン生産国が名を連ねているのを見るのも辛いところです。そこで注目されるのがカリフォルニアオーストラリアチリやアルゼンチンなど伝統にとらわれない新世界のワインです。  
 意外な品種の組み合わせ、楽しいラベルデザインなど、新世界のワインの魅力はその自由度の高さにあると思うので、価格や評価点といった数値的な基準ばかりで評価されるのは、新聞の経済面だけを眺めているようで少々寂しい気がします。

ワインとアート、ワインと映画 

 ワインは飲み物なので、美味しければそれでいい、というのは確かにその通りですが、美味しさというものは一人一人、飲む時間や場所でも変わっていくものです。お気に入りの1本を人に薦めるなら、もっと色々と気の利いた話をしたいところ。かといって生産者や畑の話ばかりでは少々堅苦しいし、あまりやり過ぎても政治や経済の話と同じで味気ない気がします。どうせならもっと楽しいお話をということで、「ワインとアート」「ワインと映画」もテーマに選んでみました。世界各国で作られている酒ならではのエピソードが沢山あることも、ワインの魅力の一つでしょう。

【ワインと戦争、そして近代戦争 

 ある意味もっとも力を入れた、そしてこの会ならではのユニークな企画が「ワインと戦争」でしょうか。実際のところ、元ネタは「ワインと戦争」(飛鳥新社)という一冊の本なのですが、ローラン・ペリエ、ドメーヌ・ドルーアン、ユーゲル、ユエといったよく知られたワイン生産者達が、苦しい戦争の時代にいかに奮闘したかが活き活きと描かれていて、強く印象に残ったのです。それまで只の銘柄に過ぎなかった「造り手」を、運命に抵抗して前進していく、個々の人間として感じられるきっかけとなりました。

 そして「ワインと近代戦争」では、イスラエルやレバノン、グルジアといった、まさにワイン発祥の地でありながら、今に至るまで紛争の絶えない地域のワインにまで関心が広がりました。素晴らしいワインを生産する土地が、同時に人の殺し合う場所ともなっているという事実は、人間の業の深さと、どうにもならない不条理さを示しているように思うのです。

2.シャンパーニュ

 さて、今回の趣向としては、「ジビエ・ディナー」ということで、ジビエをメインに、フランス各地のワインを一気に楽しんでしまおうということで、シャンパーニュからロワール、アルザス、ブルゴーニュ、ローヌと、それぞれに合う料理を味わい、一晩でフランスの銘醸地巡りを試みました。

  

「シャンパーニュ・ジャン・ボバン・コンニー ・ブリュット」(タイプ:辛口の発泡性ワイン 品種:ピノ・ノワール33%+ピノ・ムニエ33%+シャルドネ33% 産地:シャンパーニュ)  
  家族経営でネゴシアン・マニピュランを運営している生産者ですが、大手メゾンのような製法ではなく、レコルタン・マニピュランと同じような手法でシャンパーニュを生産しています。古くから伝わる伝統的な技法で生産し、圧搾から醸造、熟成まで自社で行っています。非常に華やかなフレッシュ果実の香り、程よいトースト香が余韻として長く残ります。丁寧な造りでしか得られない深みある本格シャンパーニュです。マノワさん特製の3種のアミューズと合わせて楽しみました。

3.白ワイン
 
       

「ドメーヌ・アンドレ・ヌヴ・サンセール・レ・ロング・ファン2008年」(タイプ:辛口の白ワイン  品種:ソーヴィニヨン・ブラン100% 産地:ロワール)  
 サンセールのシャヴィニョール村にある僅か12ha強の畑を所有する小規模生産者ヌヴは、テロワールの特徴をワインに表現することがとても上手な造り手として知られています。柑橘系のフルーツとコンポートの香りが強く感じられ、他にコショウやヴェジタルの香りが新鮮さを与えてくれます。活き活きとしていて、メロンや熟したレモンのような風味が余韻に残ります。バランスの取れた味わいで、若いヴィンテージから楽しめる白ワインです。ソーヴィニヨン・ブランのハーブのような香りには、くぬぎマスとホタテ貝のミルフィーユ仕立てを。サンセールはやはりさっぱりした魚介料理が合うように思います。

「ドメーヌ・オステルタグ・リースリング・ヴィニョーブル・デ 2009年」(タイプ:辛口の白ワイン  品種:リースリング100% 産地:アルザス)  
 ドメーヌ・オステルタグは現当主アンドレ・オステルタグ氏の父親によって、1966年にアルザスのエプフィーグ村に設立されたドメーヌです。アンドレ氏はブルゴーニュで醸造を学んだ後ドメーヌへ戻り、1980年からワイン造りを行っています。1996年から試験的にビオディナミ栽培を開始し、1998年には所有する13haの畑全てをビオディナミに切り替えました。発酵には自然酵母のみを使用。亜硫酸も極微量のみの使用に抑えています。「Vignoble d’E 」というのはドメーヌのあるエプフィーグ村の畑を表しています。ちょっと赤みのあるように感じられる黄緑色で、しっかりとした酸があり、リンゴのような果実を感じるエキスが濃厚に感じられ、厚みのあるワインに仕上がっています。華やかでボディもあるリースリングには、オマール海老を。グリルしたものや揚げたものなど、4種の異なる調理法で仕上げたオマール海老を食べ比べました。

「ドメーヌ・ジル・ブートン・サン・トーバン・レ・ザルジエール 2009年」(タイプ:辛口の白ワイン  品種:シャルドネ100% 産地:ブルゴーニュ)  
 ジル・ブートンは1878年から続く家族経営のドメーヌで、1995年にリュット・レゾネを採用してからは、よりピュアでナチュラルなワインへと進化を遂げました。ザルジエールは、ピュリニィ・モンラッシェの丘を登り、サン・トーバンの村を抜け西に向かう道沿いの南を向いた急斜面にある区画です。粘土質土壌に、白い石灰混じりの土が含まれる畑で、真南を向いているため十分な日照量を確保することができ、果実味がバランス良く表れます。樹齢は30年、新樽比率は10%で、8ヶ月の樽熟成を経たワインは、本格的でかつエレガントな味わいとなっています。

4.赤ワイン

  
「ドゥラス・クローズ・エルミタージュ・レ・ローヌ 2009年」(タイプ:辛口の赤ワイン  品種:シラー100% 産地:ローヌ)
 ドゥラスは1835年、北部ローヌ地区にチャールズ・オーディブルとフィリップ・ドゥラスによって設立されたメゾンです。現在ドゥラスは北ローヌを代表する生産者の一つであり、また南ローヌの数多のぶどう栽培農家と長期契約を結んでいるネゴシアンでもあります。深いガーネット色で、カシスやプラム、スミレなどの華やかな香りがあり、ミネラルやかすかな野性味がその味わいにしっかりと現れています。こなれたタンニンが果実味と見事に調和し、フルボディの赤ワインに仕上がっています。本日メインのジビエ料理、蝦夷鹿とフォアグラのパイ包み焼きと。様々なスタイルがあり味わいも多彩なジビエ料理ですが、シラー主体の北ローヌの赤は、まさに最適な組み合わせです。

5.ワインと原発

 本年3月の東北大震災と、それに伴う福島原発事故は、おそらく多くの人々の生活そのものを変えてしまいましたが、一見無関係に見える原子力発電所とワイン生産地との間にも、色々と繋がりがあるのです。

 ワイン大国のフランスは、原子力発電の比率が最も高い国として知られていますが、ヨーロッパの中でも殆ど地震が起きない国でもあります。フランスの造山活動は既にジュラ紀の時代に終わっており、従って古い石灰岩土壌で国土が覆われていて、今はワイン生産のメッカとなっているわけです。原発の所在地をあらわす地図を広げてみると、「シノン」「トリカスタン」「ブライエ」といったワイン産地の名前が出てきてどきりとしたりするのですが。

 一方もう一つのワイン大国であるお隣のイタリアは、国民投票の結果原子力発電は全く行われていませんが、ヨーロッパ有数の地震国家で、2009年にもマグニチュード6.3の地震が起きたほどです。アペニン山脈の造山活動は今も続いており、火山の噴火が土壌にも影響を与え、その結果地場品種と国際品種とが混在する最もバラエティ豊かなワイン生産国となっているのです。

 アメリカは最も多くの原発を抱えた国には違いありませんが、1970年代以後建設中止が続いており、かつその所在地は東海岸側に偏っています。西海岸側は地震が多いためですが、それ故にカリフォルニアのナパ・ヴァレーなどは限られた土地に様々な土壌が混在しており、バラエティ豊かな品種が栽培されています。

 石油の輸入元が中東であることはよく知られていますが、原発の原料であるウランの輸入元は意外に知られていない気がします。ウランの主要生産国はオーストラリアやカナダ、カザフスタンや南アフリカですが、新世界のワイン産地が多く含まれているのは気になるところです。

6.これからの「Via Vino」

【フランスVS アメリカ】  

ワインと言えば、まずは歴史と伝統、気候と土壌に恵まれたフランスとされていますが、一方で分かりやすくコストパフォーマンスに優れた新世界ワインの人気はうなぎ上りです。1976年にパリで行われた試飲会では、いかにもカジュアルなイメージのあるカリフォルニアワインが、ブラインドで名だたるフランスのシャトー物ワインを打ち破りました。そのエピソードは近年「ボトル・ショック」という映画でも取り上げられています。果たしてフランスのワインとカリフォルニアのワインを、今比べるとしたらどちらに軍配が上がるのでしょうか?

【文学とワイン 】

 やるやると言っていながらまだやったことのないテーマが、この「文学とワイン」です。興味があると言っていた割には、あまりにも文学的素養がなく、開催に至っていないというのが、お恥ずかしながら正直なところです。  ただ「文学」と大上段に構えなくても、普通の小説の類なら、ワインの登場する作品には事欠きません。あの「羊たちの沈黙」の続編「ハンニバル」にも、ディケムやペトリュスといった銘柄が登場しますし、文字通りブラインド・テイスティングを扱ったロアルド・ダールの「味」という短編も有名です。こういった作品群に登場するワインを、文章を引用しながら味合うのもまた一興ですが、結構高額なワインが多いので用意するのは大変そうです。

【スパークリングワイン】

 シャンパーニュ特集は、第四回目に開催したのが最初で最後です。リクエストは多いのですが、なかなかコスト的に厳しいというのが正直なところです。しかし夏にワインというのなら、重たい赤ワインよりもさっぱりした泡ものを楽しみたいというのが本音でしょう。同じフランス国内にも同様に瓶内二次発酵で作られるクレマンが各地にありますし、イタリアのフランチャコルタや、スペインのカバ、ドイツのゼクトなどを並べて飲み比べるのもまた一興かも。

【音楽とワイン】 

 音楽を聴く愉しみと、ワインを味わう愉しみにはどこか通じるものがあります。時間と共に移り変わり、素晴らしい余韻が残るとしても、その体験は一度限りのもので、その場にとどめ置くことはできません。視覚に比べて正確に記憶にとどめることは難しいでしょう。一方で同じ畑の同じ葡萄から、作り手によって全く違う仕上がりになるところなどは、一つの楽譜から無限のバリエーションが可能な音楽の世界に近いように思います。  
 音楽家にまつわるワイン、音楽を連想させるラベルのワインも沢山あります。一方でワインをテーマにした音楽も色々ありそうなので、それらを集めて楽しんでみたいものですね。

【アジアのワイン】

 グローバルの掛け声は日本を飛び越えてアジアで高まっているように思えますが、実は中国やインドのワインはまだこの会で取り上げたことがありません。レバノンからグルジアまで、様々な国のワインが手に入るようになった日本でも、中国やインドのワインについてはまだこれからといった印象です。ワイン産業自体は急速に拡大していて、様々な人から聞いた限りでは、意外に本格的な味わいの物も作られ始めているので、いずれ機会を見て挑戦したいと思っています。

<今回の1冊>
   
ジャンシス・ロビンソン監修「オクスフォード・コンパニオン・トゥ・ワイン」オクスフォード大学出版
 いわゆるワインの百科事典です。読み物と言うより調べ物のための本。何故か和訳がありませんが、「ワイン用葡萄ガイド」をはじめとして、この本から派生してきた書籍がいくつかあるようです。4000項目・800ページのぎっしり詰まった内容は、これ一冊あれば大抵の問題には答えられるというもの。WSET-Diplomaをはじめとしたワインの国際資格の教科書ともいうべきもので、いろいろお世話になりました。Amazonで4,500円くらいで購入できるというのは、ある意味凄くお買い得かなと思っています。といいつつも、重さ3kgの本をそうそう持ち歩くわけにも行かず、めちゃめちゃ細かい英文字を見開き1ページ読み通すのも非常につらい…と思っていたら、Diploma取得者である山仁酒店の大橋健一さんは、何と実際にこの本を鞄に入れて持ち歩いていました……。

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