「のぼブリュット」




 なにげなく「BRUTUS」(2002/3/1号)を読んでいると、ヒュー・ジョンソンが日本のワインを試飲してコメントするというコーナーがあって、おなじみの「桔梗ヶ原メルロー」や「シャトー・ルミエール」などが紹介されていました。評価の内容はまあある程度予想できるものだったのですが、その中でスパークリングワインのコーナーがあり、見慣れない一本が紹介されていました。それがこの「のぼブリュット」であります。
 ヒュー・ジョンソン「う〜ん、何とも表現のしようがない、不思議な果実味があるな。なるほど、これは甲州から来てるんだね。日本らしいアイデンティティーを感じるよ。アフターフレーバーが長く続けばなお良かった。」
 小山薫堂「さらりとしていて、力で押しまくる感じがしないですね。何だか無念無想で造られたみたい。少年少女の純粋な味がします。」
 以上がワインそのもののコメントなのですが、何よりも「おや?」と思わせたのは以下の簡単な商品説明。
「昨年の九州・沖縄サミットの晩餐会で供された、栃木県足利市にあるココ・ファーム・ワイナリーのスパークリングワイン。知的ハンディを持つ子供達の手で造られる。品種はリースリング・リオンと甲州。」
 なみいる数々のボディと熟成感を追及したワインの説明の中で、まず「飲んでみたい!」と思ったのがこのワインでした。何よりもそのワイナリーの背景に興味を持ったと言えましょう。ココ・ファーム・ワイナリーとは一体どんなところだろう、とさっそくホームページで検索。詳細はこの「ココ・ファーム・ワイナリー」のページで。
 1950年代に知的ハンディを持つ人達が暮らす「こころみ学園」の生徒達が、山の急斜面 を切り開き、600本あまりのブドウの苗木を植え、1980年代に実ったブドウを元にワインを造り始めた……ホームページには、ココ・ファーム・ワイナリーのささやかな歴史がどこか控えめに説明されていました。書かれていない多くの苦労があったに違いないのですが、あくまでワインの中身で勝負、とでもいうようにその商品説明は淡々としたものでした。
 かの「オーパス・ワン」を彷彿とさせる「マグナムオーパス」や、以前にこのコーナーで紹介したことのある「第一楽章」もここのワイナリーの作品。シャンパーニュタイプのものも、この「ノボ・ブリュット」の他に「ぐらんのぼ」(ピノ・ノワール60%+シャルドネ40%)と「のぼドゥミ・セック」(リースリング・リオン90%+甲州10%、甘口)があります。日本で殆ど唯一キャンティに使用されるサンジョベーゼを栽培しているのもここ。かなり本格的に運営されているワイナリーなのですね。

 さて、2002年末の自宅クリスマスパーティにてまず開けたのがこの「のぼ・ブリュット」であります。他のラインナップは以下の通 り。
「のぼ・ブリュット」
「スタッグス・リープ・シャルドネ2000年」「動物ラベルの会」でも開けたもの。ラベルの鹿をトナカイに見立てて。
「シャトー・ラ・ポーズ・コート・デュ・ボーン・ローン2000年」犬の足跡と骨のマークがチャームポイントのカリニャン主体の赤。
「アリエル・カベルネ・ソーヴィニヨン2000年」実はノンアルコールワイン。
「クロ・デュ・ヴァル1998年クリスマスボトル」ボトルにクリスマスツリーが彫り込んでありました。
「シャトー・デレスラ・トカイ・アスー・6プットニュス1993年」 デサートワインとして、トカイの貴腐ワイン
 なるべくクリスマスに合ったワインを、とそれなりに工夫したつもりなのですが、果 たして……?
 ちなみにこの「のぼ・ブリュット」は、確かにいわゆるスタンダードなシャンパーニュがしっかりとした酸味とミネラル由来の固さを持っているのに対し、甲州由来の柔らかさやどこか日本酒を思わせる吟醸香が感じられて、非常に「優しい」印象のスパークリングワインでした。上記のコメントも確かに的を得ています。上級のブラン・ド・ブランの持つボディとパワフルさとは異なる仕立てとはいうものの、これもある意味「深味のある味わい」の一品と言えるのではないでしょうか。もう一本別 に買ってある「ぐらんのぼ」を飲むのが楽しみであります。



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