「アンティポディアン」1997年


  


 WINESCHOLAのチーム2000の同期Sさんが仙台に転勤となるので、赤坂に新しくできた和風のワインのお店「JUNO」にて壮行会。7人が集まりました。
 今回の趣向は、各自が1本ずつお店のワインを選ぶというもの。シャンパーニュで一通 り乾杯した後、まずは「エチエンヌ・ソゼ・ピュリニー・モンラッシェ・シャン・ガン98年」。エチエンヌ・ソゼはピュリニーを代表する作り手で、シャン・ガンはピュリニーの一級畑。輝きのある黄金色で、バニラ香が強く、その中にどこかトーストっぽい風味があります。ボディも強く、比較的若いビンテージのためか苦味を感じるほど。ここで出された料理は和風オードブルの盛り合わせ。九つのくぼみに仕切られた四角いガラスの皿に、ウナギやタコの桜煮、カラスミにスズキ、鴨のロースト、空豆や太インゲンなどがきれいに盛りつけられていました。
 もう1本白を、ということでYさんが選んだのは、ニュージーランドのソーヴィニヨン・ブラン「グローヴ・ミル2002」。ブルゴーニュの骨太なシャルドネとは対照的な、透明感があって甘いマスカット香が心地よいソフトなワイン。そのジューシーな味わいには驚かされました。ここでトロやカンパチ、赤貝などの刺身の盛り合わせが出されましたが、フルーティーな白であるにも関わらずまずまずのマッチング。
 次に私が赤を選ぶことになり、メルロー主体のカリフォルニアを当初考えていたのですが、ソムリエさんのお薦めはサンテミリオンの老舗。さてどうしたものかと考えていたところ、「できるだけ変わったものにしよう」というSさんのアドバイスに従うことに。ここから選択者以外はブラインドで行こうということになり、各自品種と産地当てに挑戦することに。
 出された赤はピノ・ノワールを思わせる鮮やかなルビー色。決して濃い色ではないのですが、香りはどことなくスパイシーで飲んでみると意外としっかりしたボディを持っていました。飲んだことがあるようなないような微妙な風味。Nさんはイタリアのサンジョベーゼ主体のもの。Yさんはフランスのガメイもしくはマルベック。Oさんはローヌのシラー、Mさんは南アフリカのピノタージュ、Tさんもローヌ……と見事に意見が分かれました
 正解は「コート・デュ・ジュラ97年」 ユーゴスラビア出身のオーナーがフランスに渡って開いたワイナリーで、品種はピノ・ノワールにトルソー(ジュラの赤)とピクプール(南フランスの白)を加えたもの。普通 ジュラと言えばヴァン・ジョーンの「シャトー・シャロン」くらいしか思い浮かばないので、これはさすがに皆さん分からなかったと思います。料理はマグロにやまかけならぬ ふわふわのアボガドソースをかけたもの。単にアボガドを練っただけではここまでふんわりとはならないので、おそらく若干の山芋とワサビを加えているのではと思うのですが、レシピについては企業秘密とか。赤身の生魚にこのすっきりした赤が意外に合いました。
 
次はMさんが赤をセレクト。濃厚な赤紫色で、非常にボディがありかつしっかりとしていながら厳しすぎないタンニンが感じられました。当然メルローとおもいきや、シルエットはどう見てもなで肩のブルゴーニュ瓶。こうなるとボルドーではあり得ない。Nさんはニュージーランドかカリフォルニアのメルロー、Yさんはオーストラリアのカベルネ・シラーズ、Oさんはカリフォルニアのメルロー、TさんとSさんはローヌのシラー。私は逆にメルローのように濃いブルゴーニュのピノ・ノワールではないかと勘ぐりました。ルイ・ジャドの「コルトン」が、丁度こんな感じでメルローのように色が濃かったので。
 正解は「ドメーヌ・デュ・パヴィヨン・メルキュロール・クローズ・エルミタージュ99年」……なんとシラー100%。オーストラリアのシラーズならいざ知らず、クローズ・エルミタージュのシラーと言えば、むしろスパイシーで鋭い酸味が当たり前と思っていただけに、この柔らかさには正直驚き。亜硫酸を使わず、新世界スタイルに仕上げているようです。
 次にNさんが選んだ赤は、厚みのある色調の赤紫で、非常に柔らかな味わい。やや青っぽいハーブ的な香りがありますが、このまろやかさは紛れもない正統派のメルローのもの……ということで、私も含めて六人中五人がポムロールのメルロー、Sさんのみメドックのクリュ・ブルジョワと答えました。
 正解はなんとチリの「コンチャ・イ・トロ・ドン・メルチョー96年」、マイポ・ヴァレーのカベルネ・ソーヴィニヨンであります。見事にだまされた、というより飲んだことのあるワインなのになぜ気付かなかったのだろう。言われてみればこのいわゆる青っぽさはいかにもチリワイン特有のもの。フランスのメルロー主体のワインならもう少しムスク的な、動物的なニュアンスが加わるところかも。料理は骨付きラム。スタンダードながら納得のいく組み合わせ。
 最後に開けたのが、一番のお目当てのニュージーランドワイン「アンティポディアン97年」、かの有名な「プロヴィダンス」と関係の深い銘柄なのだそうです。「プロヴイダンス」は、ニュージーランドの「ル・パン」かとまで騒がれた新星で、メルロー70%にカベルネ・フランとマルベックを使用。オーナーのジェームズ・ヴルティッチ氏は弁護士を本業としていて、亜硫酸を全く使わずに長期熟成型ワインを作りだしたと言います。
 さて、「アンティポディアン」のオーナーはピーター・ヴルティッチ。「プロヴィダンス」のジェームズとは兄弟に当たります。そもそもピーターとジェームズが共同でマタカナにこのワイナリーを立ち上げたのが1979年。1985年にはイギリスで評判となるものの、1988年に二人は解散、90年にジェームズが「プロヴィダンス」を立ち上げる一方で、ピーターは「アンティポディアン」を引き継ぎました。1.8haの畑で年間200〜300函という生産量 の中、この店は10函入手したとか。メルロー主体で、ラベルには他にカベルネ・ソーヴィニヨンとマルベックの記載があります。「antipodean(アンティポディアン:足が反対向きの、の意)」は元々はヨーロッパがオーストラリア人のことを茶化した言葉で、実際私はまだ飲んだことはないのですが、オーストラリアのバロッサ・ヴァレーにも「Antipodean」というシラーズ主体のお手頃なワインがあるようです。
 ソムリエさんがデカンターに移したワインは、思い掛けなくも鮮やかな輝くルビー色。甘い香りの中に、バニラともチョコレートともつかない菓子風のニュアンスがあり、エレガントだが意外と力強く、ピノ・ノワールのようにまろやかですが、この香水のようなえもいわれぬ 香りは上級のメルローならではのものかも。お店には「プロヴィダンス」も置かれていて、どちらもかなりの値段なのですが、できれば比較試飲したいところ。マスコミにも顔を出すジェームズと、表に出るのを嫌うピーターとは性格も正反対なのだそうですが、作るワインはかなり似ているそうです。ホームページにも「色調に比べて力強さが勝っている。鼻に抜ける香りには紅茶やモカ・フレーバーを感じさせる」と書かれていたりして、結構同じようなスタイルなのかもと思ってしまいました。こちらの方も、機会を見つけていつか飲まなくては!



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