「シャトー・ラ・コンセイヤント」95年



 「夜も更けて、唇をシャトー・ペトリュスで赤く染め、燭台には蜂蜜色のシャトー・ディケムをついだクリスタル・グラスを置いて、レクター博士はバッハを弾く」……「ハンニバル・パーティー」の二本目は、本来なら当然この「シャトー・ペトリュス」にするべきなんだけど、さすがに五大シャトー全部よりも高い値段のつく「ペトリュス」をそう簡単に開けるわけにもいかないし、集まったのが5人なら一人2万円ずつ徴収することになってしまう。それも少々気がひけるというのもあって、ややお手頃の「ラ・フルール・ペトリュス」あたりを考えていたんだけど、結局お店の人に勧められるまま、この「ラ・コンセイヤント」を用意したのでした。「ペトリュス」は……まあ、次の機会に。
 やまやの店員さんの話では、水平テイスティングした所ではポムロールではこの「ラ・コンセイヤント」がダントツで良かった、とのこと。滑らかで今飲んでも十分においしい、という言葉を信じて購入。なにせポムロールのワインは、私にとってはなかなか決め手となるものがなくて悩みの種だったのでした。サンテミリオンの「フィジャック」ゃ「カノン」がうれしい思い出となっているのに比べて、61年の「ネナン」86年の「レヴァンジル」92年の「ヴュー・プラトー・セルタン」のいずれも「いまいち……」の印象。95年という良年でかつ新しめのものを選んだのも、寝かせたポムロールに一抹の不安があったからで……。
 「ラ・コンセイヤント」は1756年、カトリーヌ・コンセイヤント夫人が自分の畑のワインに自分の名を付けたのが始まり。ラベル中央の「L」と「N」の文字は、おそらく1871年にこの畑を買い取ったルイ・ニコラに由来すると思われます。3世紀にわたって名声を保ち続けたこのワイン、あくまで伝統的な手法にのっとって二年以上熟成され、しかもその間一切濾過作業は行われないし、ポンプも使わず重力を利用する方式で扱われるとのこと。
 「絹のようになめらかで、他の畑とは異なる濃密さ」とは本に書かれた誉め言葉ですが、実際にデカンテーションしてみて、その色調の濃厚さにびっくり。少し甘めのメルロー由来の柔らかい香りで既に大満足の状態。口に含むと、しっかりと濃厚なのに、余計な苦渋味は一切感じさせない。手頃なポムロールというとやや苦いかややシャバシャバかのどちらか、という印象を漠然と持っていたのですが、とんでもない話。メドックにはない柔らかさ、しなやかさは、確かにタンニンが控えめのメルロー由来のものでしょうし、ここの地域の名品がこぞって入手困難・価格暴騰なのもなんとなく頷けるような気がします。



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