淡々と無機質に語られるようでいて妖艶に湿った、中毒性の高い8つの物語。読み終えてふと眼を上げると、夕暮れの景色に一枚川上フィルターがかかったような。次に止まる電車の駅で、ふいにタコ男が乗ってきても自分も周りも平然としているのだろうとか。この人の作品で(今の所)一番好きな本。
jenre:短編集
落語家、円紫さんと「私」のシリーズ。日常生活に潜む何気ない謎を、円紫さんが次々と解いてしまう……というワトソン・ホームズ系のコンビなのだけれど、謎解きそのものよりも、「私」をめぐる日常の風景、女子大生である彼女の姿勢、心持ちがとても素敵。謎の底にある「何気ない日常を生きること」の困難さ、哀しさにもさりげなく、でも深く頷かされる。落語に関する嫌味のない蘊蓄や、国文科学生の主人公が読む本の描写も楽しめる、素敵な本です。
女は言葉を売って暮らしていた。男は女から言葉を買った。これはおまけだ、と二つの言葉を、女は耳元で囁いた。「この二つの言葉はあなたのものです。どうか好きなようにお使い下さい」。女から買った言葉で、男は念願の大統領の地位に上り詰めて行くのだが……。「二つの言葉」他23編。
お話の名人エバが語る愛の物語はファンタスティックでもあり、もの悲しくもあり、どの一編も不思議に胸に迫る。「エバー・ルーナ」という長編の番外編扱いだけれど、これ一冊でも充分楽しめる。
jenre:短編集
13編の、まさに珠玉の短編集。研ぎ澄まされた日本語の力に酔いながら、幻想的な、でも不思議にリアルに肌に迫る世界を彷徨う一冊。無惨で、美しく、悲しくも可笑しくも怖い。ページの合間から色や匂いが立ち昇ってくる。素晴らしい。2001年のマイベスト。
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例えば「この世で一番美しい水死人」という短編。浜辺に流れ着いた見知らぬ美しい水死体を前に一人の老女が呟く。「顔を見ると、エステバーンという名前じゃないかって気がするね」村人達は立派な葬儀を上げてやり、エステバーンの想い出の為に家の戸に明るいペンキを塗り……。この作家の作品を読むと、美しさとか愛とか、生とか死って一体何だろうとか、そういうシンプルな場所にココロが立ち戻る。ともかくたいした作家さんだ。
jenre:短編集
「隠し部屋」と呼ばれる地下室を巡り、閉じこめられた「罪人」達を査察する主人公を描いた表題作を始め、不条理な世界感をからりと書く語り口の上手さに惚れる。短編小説かくありたいと言った「物語」集。上手い。面白い!
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大人の為の創作童話集。ピュアである。心の底の忘れたくない、忘れてはならない部分をまっすぐに、小細工無しに突いて来る。そんな本。
jenre:短編集
シエラザード姫が語る、あまりにも有名なあれです。似たような話も多いし中だるみもしますが、姫の語りはさすがで「ここからは明日ね」と言われてジリジリする王の気持ちは良く分かる。イスラムの罪の観念とか、改めて読むと色々新鮮で面白い。結構エロティックだったりもして、さすが寝物語。
jenre:短編集
同名のクラブ会員達、名だたる知識人達が集会の度に謎解きに挑むが、その謎を解いてしまうのはいつも給仕のヘンリー……。いわゆる「安楽椅子探偵」ミステリー。、謎解きも楽しいが、それより一癖ある登場人物達のイヤミっぽい(笑)うんちく語りを楽しむ本。毎度の晩餐メニューに舌なめずりするも吉。