若い作家さんだ、と思う。悪い意味では断じてない。物を書くにしても音楽を作るにしても、その年代じゃなきゃ出来ない事ってある。経験を積んでから書ける「若さ」もあるだろうけれど、歳を喰ってからでは決して書けないこともあると思う。若い内にはなかなか活字になりにくい(と思われる)本の世界で、「若さ」が読めるってのは幸せな事だとも思う。あと10年経ったらこの人はどんな作品を書いてくれるのだろう……と楽しみにもなる。(今が未完成という意味では決してない。念のため)「死を目前とした人の願いを叶える」という言い伝えのある病院。そこでバイトをしている主人公。彼の若さが時に鼻についたりするのがまた愛おしい。この作家さんの作品ではこれが一番好き。
jenre:ミステリー
寄り道せずに書きたいことだけをまっすぐ書いている、こんなにストレートに書かれるともうぐうの根も出ないという真っ直ぐな本。パワーに圧倒され、感動しました。
本当を言えば本来、この方の「文章」は私の好みじゃないんです(善し悪しではなく個人的嗜好の問題でね)。でもこちらの好みがどうのこうのなんて問題をどかんと吹っ飛ばすほどのパワーと勢い、飾り気の無いシンプリシティー。
ストーリーとしては山に挑む男達の話。若干ミステリー仕立てで、謎解き的にも読み出したら止められない仕掛けがちゃんと整っています。別に好みのタイプの登場人物が出てくる訳でも、寄り添えるほど親近感を感じられる人物が出てくる訳でもない、だから深く感情移入出来る訳でもない。でもとりあえず圧倒されっぱなしの本でした。「生きるって何だ」という本。
jenre:ミステリー
落語家、円紫さんと「私」のシリーズ。日常生活に潜む何気ない謎を、円紫さんが次々と解いてしまう……というワトソン・ホームズ系のコンビなのだけれど、謎解きそのものよりも、「私」をめぐる日常の風景、女子大生である彼女の姿勢、心持ちがとても素敵。謎の底にある「何気ない日常を生きること」の困難さ、哀しさにもさりげなく、でも深く頷かされる。落語に関する嫌味のない蘊蓄や、国文科学生の主人公が読む本の描写も楽しめる、素敵な本です。
どこかにあるはずの謎に包まれた小説「三月は深き紅の淵を」をめぐるミステリー。四部構成の小説らしく、この本そのものもオムニバスな四部構成になっている入れ子。どれも独立した物語だが、どの章もそれぞれの魅力に溢れていて、「私はこの章が好き」「いや、自分はこっち」と語りたくなること請け合い。ノスタルジー、切なさ、そして「物語」としての魅力、魔力------に溢れた本。特に「私」のモノローグで始まる四章は圧巻で、謎を解くように見せて謎を深めて物語は放り出される。この章に魅せられる人、蛇足だと腹を立てる人、両極端に別れるに違いないと思う。私は魅せられた方。確信犯的未完成が魅力の大作。
jenre:ミステリー
ナポレオンに脅かされるエジプトの世にて企てられた、奇想天外な計画。読む者を虜にし、末は破滅へと誘う「災厄の書」を用いて、フランス軍を打破すべし----。
シエラザードの役を果たす美しい語り手が語る夜毎の物語、そこから醒めて我に返ってもまだ読み手は物語の中に迷っている、夢の中の目覚めで夢を惜しむ感覚。まさに「物語のための物語」という、それだけで「物語」好きを籠絡するに充分なプロット、それもまた作家の企みか。まんまとはめられ、引きずり込まれるように読んだ。面白かった!
例えば、実在しない「この世ならぬ音楽」を文章の中で語るのは比較的容易い----と思う。実際にその音が読者に届く訳ではない。美しい言葉で修飾を列ね、あとは読者の想像力の世界に委ねればいい。だけど、「稀代の物語」を豪語し、それを実際に文章にして語るってのは----いい度胸してるなあ。始めはその物語を「匂わせる」だけの構成で、ホンモノは登場しないんじゃないかと思っていたら、語る語る。またそれが実際ヤバいほど面白いんだから始末に負えない。
この本は作者のオリジナルではなく、作家不詳の「the arabian nightbreeds」の訳書という事になっているけれど、きっとそれも錯綜して語られる「物語」の一部。
オルガンの響きが全編に鳴り渡る。ウンチクも含めたその旋律を味わう事が、この本の醍醐味かと。ストーリーの方が背景なのかもしれない。音楽に魅入られた人間が選んだ、神に背く道、その道程とは?音楽好きは特に、是非。
jenre:ミステリー
貸してくれる、と言っていた知人となかなか会えず、今まで読めずにいたんですが、最近無事貸して頂き読了。一気読み。 発想の面白さ、ストーリーテリングの巧み。主人公に芽生えた不思議な能力の描写、その活用の仕方、彼が新たな能力に興味や不安を感じて行く過程、説得力があり読者を混乱させません。いつもいい仕事する作家さんだよね。丁寧に書かれた、でもライトに読めるSF臭のあるミステリー。裏切りの無いヒーロー活躍モノでもあるので、単純に楽しめる。パワー・オフも面白かったねー。
jenre:ミステリー
タイトルにクラクラ来て買い。外れませんでした。「イコノロジー」‥‥図像解釈学、という分野から、画家の深層心理に迫る事による謎解き。中盤部分は、個人的にはちょっとクドく感じ途中読み疲れ、読了までに一ヶ月ほどかかった。けれどそのクドい感じがこの作品の雰囲気を構成しているのも確か。謎の車輪の中に読み手を迷わせ、時には恍惚とさせる手腕はお見事。謎解きされてゆく絵画(何と作者本人が描いている)も巻頭に付けられていて、読む前から興味をそそる。終盤にかけての、手記から会話に戻っての盛り上がりがいい。
jenre:ミステリー
この本からはまって読んだピーター卿シリーズ。どれがお勧めかと言えばやはりこの一冊でしょうか。重苦しいイギリスの村で起こる殺人事件。「鳴鐘法」(鐘突きですね)が題材。寒村に響き渡る鐘の音の中、謎解きが始まる……。
jenre:ミステリー
中学生の頃ハマりにハマって全巻家に揃え、何度となく読み返したアザサ・クリスティー。ミス・マープルものが好きなので、導入編?としてとりあえずこの短編集を。でもこの人は本来長編の人だと思うけれどね。無論ポアロの味も好きだし、トミーとタペンスも、クィン氏ものも……。そういえば某BBC放映のポアロのドラマはいい味出してましたなあ。テーマ曲がいかにもで好きだった。
jenre:ミステリー