無駄に長い寓話。「よくもここまでどーでもいい事をぐたぐた書けるものだなあ」と(笑)。話始まるまでが長いんだよ! 嫁さんの父親の弟の娘の旦那の母親と旦那の義父の姉の旦那の妹がどうのこうの、そんなこと一頁もだらだら書いてるんじゃないよ! とイライラしながらそれでも読む。禅問答的と言えば聞こえが良すぎるような、どうでも良い事をぐだぐた書いているような、でもどうでも良くない事なのかもしれないと思い直し、でもやっぱりこれ、どうでもいいことなんじゃないか? と疑惑にかられつつ最後まで読む。最後まで読むとそこはかとない感動が……あるような無いような。やっぱりあるようなそれでも無いような気もして、でも全く無いのかと言えばそれもまた真実では無いような、つまりそんな本です(どんな本だ)。結論としてはとても好き。早い話が(あまり早くないが)佐藤哲也さん大好きなんですよね。「妻の帝国」も面白かった。是非読んでみて下さい。
jenre:SF・ファンタジー
ナポレオンに脅かされるエジプトの世にて企てられた、奇想天外な計画。読む者を虜にし、末は破滅へと誘う「災厄の書」を用いて、フランス軍を打破すべし----。
シエラザードの役を果たす美しい語り手が語る夜毎の物語、そこから醒めて我に返ってもまだ読み手は物語の中に迷っている、夢の中の目覚めで夢を惜しむ感覚。まさに「物語のための物語」という、それだけで「物語」好きを籠絡するに充分なプロット、それもまた作家の企みか。まんまとはめられ、引きずり込まれるように読んだ。面白かった!
例えば、実在しない「この世ならぬ音楽」を文章の中で語るのは比較的容易い----と思う。実際にその音が読者に届く訳ではない。美しい言葉で修飾を列ね、あとは読者の想像力の世界に委ねればいい。だけど、「稀代の物語」を豪語し、それを実際に文章にして語るってのは----いい度胸してるなあ。始めはその物語を「匂わせる」だけの構成で、ホンモノは登場しないんじゃないかと思っていたら、語る語る。またそれが実際ヤバいほど面白いんだから始末に負えない。
この本は作者のオリジナルではなく、作家不詳の「the arabian nightbreeds」の訳書という事になっているけれど、きっとそれも錯綜して語られる「物語」の一部。
SF的な設定の上に描かれる孤独と愛と謎と冒険の物語。政治的迫害を逃れて辿り着いた無人島で、主人公が遭遇した「モレルの発明」とは。報われない愛の為に彼が選んだ生き方は? 名著。
jenre:SF・ファンタジー
辺境惑星ハイペリオンを目指す7人の巡礼者。その星を訪れるまでの経緯を一人一人が告白して行く。ついに到着したその星で何が彼等を待っているのか。
ストーリーテリングの妙。SFであろうが何だろうが物語を物語とするのはまず作家の語り口であるのだなと改めて認識させられる。上手いの一言。6人の告白の語り分け、随所に忍び込ませた古典やSF作品のオマージュ的遊びも楽しめる。「ハイペリオン」はあまりに唐突に終わってしまうので続編を次々と読むハメにはなるのだけれど、シリーズ中ではこの本が一番見事かな。
jenre:SF・ファンタジー
ヴァートと呼ばれる羽を口に入れ、喉をくすぐると異世界への旅が始まる。剣と魔法のRPGの体感世界であったり、ドラマの主人公になれたり人気女優と××出来たり。羽には様々な色がある。色によって冒険は変わる。合法の羽は安全だが、非合法の羽はそうは行かない。非合法の黄色の羽で冒険を試みた主人公は、そのトリップの最中に尤も大切なものを無くす事になる。無くしたものを見つける為に、彼はもう一度黄色い羽の世界へ旅立とうと……。
ヴァートはバーチャルリアリティーを体感させてくれる未来型ドラッグ。世界観的にはギブソン的パンクな退廃感を踏襲している。その中で語られる主人公の純愛、成長モノ。続編はあまり面白くなかったかな。これ一冊で充分。
jenre:SF・ファンタジー
ともかくひたすら「カッコイイ」SFである。サイバースペースを荒らすカウボーイ。ひねくれ者だが正義漢のヒーロー。傷心、退廃、挫折と希望。
空間の演出がすごい。退廃した電脳都市チバ・シティーの描写から始まって、ヴァラエティー豊かな、だがどこもギブスン世界としか言いようのない空間にどっぷり浸れる。登場人物達の一癖ある会話文も随分それに貢献している。
訳者がルビにカタカナを多用している……「凝り性」に「アーティスト」とルビを振ると行った具合に、作者の癖のある言葉の使い方をそのまま生かそうとしているのも大成功だと思う。これが無かったら訳書としては物語の魅力が半減したかもしれない。
華々しく時代を作った作品であるだけに、逆に「時代」と共に語られがち。既にSF歴史書と見なすような向きもあるだろうけれど、今読んでも物語、世界観、充分楽しめる。
jenre:SF・ファンタジー
生命の進化を描く螺旋。主人公が迷い込んだ仏教的異界で、その螺旋の果てを目指す旅路を壮大なスケールで描いた作品。
旅の道連れは何と宮沢賢治。……実在の作家を、その作品のイメージも含めてこういう風に使うのは、ちょっと疑問に思わないこともないのだけれど、まあそれは置いておいて。神話的スケールの螺旋をぐるぐると上り詰め、彼等がそこに見るもの。楽に読める物語ではない。読むこと自体が登場人物と共に螺旋を登るに似て、エンディングに燦然と輝く光を、読み手も旅を終えた心地で一緒に味わえる筈。
jenre:SF・ファンタジー
ファンタジー、と言われればイチオシはこれ。聞き耳という名の主人公が、手にした石の運命に導かれて彷徨う人生を描いた作品。聞き耳は愚かな人間だ。同じ失敗を懲りずに繰り返し、嘆き、失意に沈む。これはヒーローものではなく、ごく普通に愚かな人間の一生に数々の物語を織り交ぜて語られる寓話。傑作。ぜひ読んで。
jenre:SF・ファンタジー
SFを読み始めたきっかけがこの作家だったので、どうしても思い入れしてしまう。なのでなかなか一冊が選べないのだけれど。詩的でノスタルジックな文章は大人にも子供にも楽しめ、私がそうであったようにSF第一歩としては最適な作家だろう。今でも時折本棚から短編集を適当に選んでふと読むが、いつどの本をどこから読んでもブラッドベリの世界に浸れる。彼の長編より短編集の方が私は好き。
jenre:SF・ファンタジー