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【映画】サム・ライミ「スパイダーマン3」

 ヒットシリーズ「スパイダーマン」の第三作目であります。昔、アメコミ原作の映画はチープでした。何とも安っぽく、原作の絵の持つ魅力が全く反映されていない、というのが当然でした。まあそれが、ティム・バートンの「バットマン」あたりから変わってきて、単なるCGの発達だけでなく映像作家のビジュアルに対するこだわりが前面 に出るようになって、今やハリウッドの花形、中には凡打もあるものの、かなりの確率で興行成績的にヒットを飛ばすようになっています。元のキャラクターデザインが殆ど変わっていないまま映像化されている場合が多いので、ある意味、映画が漫画にやっと追い付いたというのが正直なところでしょうか。
 今回の「3」は、敵役にニュー・ゴブリンとサンドマンとヴェノムが登場して、グウェン・ステイシーとその父親も登場して……とやたら盛り沢山と聞いていたので、正直収拾つくのかいなとは思っていましたし、何しろスパイダーマンがブラックになっちゃう映像も早い時期から流れていたので、これって「スターウォーズ/エピソード3〜シスの復讐」みたいに主人公がダークサイドに落ちて何かやらかすのかいな、という期待感も実はあったりして、結構早々と観に行ってしまったのでした。
 いやはや、やっぱりかなり盛り沢山。展開は早い早い……というか、たまたま主人公が公園でくつろいでいた近くに隕石が落ちたり、主人公の伯父を殺した真犯人がたまたま研究所の施設に落ちて砂人間になったり、いくらなんでも偶然が重なりすぎではないかい? という突っ込みはともかく、ダークパワーを引き出す宇宙からの寄生体に取りつかれたパーカー君、調子に乗ってジャズクラブで見事な踊りを披露してちょっと浮いてしまったくらいで深刻に反省しすぎです。ブラック・スパイダーマンのダークサイドってその程度? もう少ししっかり過激になって、取り返しのつかないことをしてしまって悩む、くらいのハードな展開になることを期待してたんですが……。グウェン・ステイシーが殺されるとかそういう展開もなく(ただ出てきただけ)、スパイダーマンはブラックになっても意外にハメをはずさなかったので、その後のハードな展開にあんまり今一つ結びついていないような気が……。
 寄生体は別の人物に取りついて、ブラック・スパイダーマンそっくりの「ヴェノム」になるんですが、ココで当然「本当は別 人の仕業なのに、ブラックになったスパイダーマンが疑われる」という「にせウルトラマン」的な展開が来ると思いきや、誰が調べたのかあっさり別 人と判明され、そのまま皆が眺める場でのバトルに……それじゃブラック・スパイダーマンそっくりになった意味がないんじゃない?
 特撮は見事だし、最初から最後まで飽きさせない展開は、さすがサム・ライミ、と思いましたが、やっぱり詰め込み過ぎというか、サンドマンとニュー・ゴブリンのエピソードで「3」を作ってから、ブラック・スパイダーマンとヴェノムのエピソードで「4」を作った方が流れとしては自然のような気がしたんですけど、どうでしょうか。これだけのネタをよくまあ一つにまとめたものだと感心はしましたが、少々それぞれのエピソードが使い捨てっぽく感じられて勿体ないと思っちゃいましたね。


【映画】ピーター・ウェーバー「ハンニバル・ライジング」

 ヒットシリーズ「ハンニバル・レクター物」の第四作であります。大傑作の「羊達の沈黙」が原作・映画共に良くできていたのに対し、2作目の「ハンニバル」となると原作と映画はオチが変わってしまい別 の作品となった結果、両者ともにどこか消化不良気味。何より「羊達」でクラリスとレクターが鉄格子越しにしか対面 できないというのが良かった、と思っているので。その後「レッド・ドラゴン」が映画化され、やれやれもうレクター物はいいかな、と思いつつ四作目が発表になるとやっぱり劇場に行ってしまうあたりは、かの「エイリアン」シリーズとほぼ同じ成り行き。「エイリアン4」も、監督があの「デリカテッセン」「ロスト・チルドレン」ジャン・ピエール・ジュネと聞いたから観に行ったようなものですが(もう10年近く前かあ)、今回も監督があの「真珠の耳飾りの少女」ピーター・ウェーバーと聞いたから観に行くしかないなと思ったわけで。
 最も今回の作品、観る前から周囲での評判はあまり芳しくなかったような……。何でも日本が絡むということで。ワイン・マニアのレクター博士はまだ納得いくにしても、ジャポニズムに浸ってるレクター博士ってどうよ、という訳なんですが……。実際、レクターの伯母に当たる日本人のレディ・ムラサキ(多分、紫式部から……「ハンニバル」のフェル博士もそうだったけど、こちらも少々ストレートすぎる引用)は鎧兜をご先祖様として祭っているし……いや、ここら辺の部分は、むしろ日本刀の切れ味だけに特化して描いた方が、その後のメスを愛用するハンニバルの殺人趣味とも結びついたような気がするなあ。あと日本のカニバリズムとしては例のパリの人肉食事件があったんで、これと強引に結びつける手はあるかと思ったんですけどね。
 監督のピーター・ウェーバーは、「真珠の耳飾りの少女」を作っただけあって、過去の回想の映像と現在進行形の殺人の映像とのタッチを変えることによって、うまく雰囲気を出していてさすがだなあと思った次第。「エイリアン」シリーズのジュネやフィンチャーにもそれは感じられたのですが、妙に「シリーズ物」の制限を受けてしまった分力量 が発揮しきれなかったような印象があります。全く新しいオリジナルシナリオで、シリアス・キラーの青年を描いた方が良かったんじゃないかしら。長身・細面 のギャスパー・ウリエルはどうしてもアンソニー・ホプキンスの丸顔と結びかないし。
 果たして人肉食いは、愛しいと思う人間を食べたいと思うのか……汚いと思う人間、嫌悪する人間は口にしたくないのではないか、それならむしろ愛しいと思う人間を自らに同化させたいと思うのではないか……何人かで「ハンニバル」を鑑賞した時、そんな物騒な話をしたような記憶がありますが、今回の「ハンニバル・ライジング」に関しては、そこら辺にちゃんと決着をつけているので、その意味ではある程度予想通 りの展開とは言えうまくまとめたなあと思わないこともありません。ちなみに映画を観た当日はなんとなく菜食主義者で通 しましたが、翌日は平気でワイン片手に肉を食べてましたっけ。映画でも誰かが口にしてたように思いますが、人間ってある意味本当にしぶといなあ。


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